キレート効果(読み)キレートコウカ

化学辞典 第2版 「キレート効果」の解説

キレート効果
キレートコウカ
chelate effect

一般に,多座配位子キレート化によってできる錯体は,対応する単座配位子(たとえば,エチレンジアミン(en)に対するアンモニア第一級アミン)による錯体よりも安定である.これは錯体生成の前後におけるエントロピーの差が,多座配位子の場合に有利なためであると説明されている.すなわち,1分子のenが金属イオンに配位するとき,金属イオンに配位していた単座配位子2分子と置換するから,エントロピーが増えるが,NH3は単座配位子なので,同数の単座配位子と置換するだけで,エントロピーの変化がない.このため,enが配位する生成定数のほうが二つのNH3が配位するときよりも大きくなる.エンタルピーに寄与する因子としては,単座配位子が隣接した配位座を占めようとするとき,配位子間の静電的反発作用を生じるが,キレート配位子では二つの配位座がすでに近くにあるため,その作用は小さい.全体としてエントロピー効果が支配的である.キレート化により生成したキレート環が五員環の場合にもっとも安定で,六員環の場合がこれについでいる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「キレート効果」の意味・わかりやすい解説

キレート効果 (キレートこうか)
chelate effect

多座配位子が中心金属に配位してできるキレート錯体の安定度は,対応する単座配位子のつくる錯体の安定度よりも大きい。このキレート環形成による安定化をキレート効果という。たとえば,つぎの平衡(en=エチレンジアミン)

 M2⁺+en⇄M(en)2

における金属M=Co,Ni,Cu,Zn,Cdのモノエチレンジアミン錯体の安定度定数は,それぞれ5.89,7.66,10.55,5.71,5.47であって,対応するつぎの平衡

 M2⁺+2NH3⇄M(NH322

における上記金属のジアンミン錯体の安定度定数3.62,4.95,7.61,4.61,4.65よりも大きい。キレート効果の原因としては一般にエントロピー効果が大きいと考えられている。
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