クベーラ(読み)くべーら(その他表記)Kubera

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クベーラ」の意味・わかりやすい解説

クベーラ
くべーら
Kubera

インド神話に現れる神。倶鞞羅。別名をバイシュラバナVaiśravaa(毘沙門(びしゃもん))という。古くは大地の精とも地下の妖怪(ようかい)ともされるが、この起源は明らかではない。彼は叙事詩マハーバーラタ』やプラーナ文献において財宝の神となり、ヒマラヤの奥にある都アラカーに住んで北方の守護神となった。夜叉(やしゃ)や羅刹(らせつ)などの妖怪を従えて財宝を守り、キンナラ(緊那羅)がつねにはべる。『ラーマーヤナ』の悪鬼ラーバナとは異母兄弟の関係にあり、ともに南インドのシュリ・ランカー(現在のスリランカ)を統治していたが、ラーバナに追われて彼と仲たがいした。クベーラは太鼓腹の小人で、三足、八歯、一眼の異形とされるが、ブラフマー(梵天(ぼんてん))より授かった天車プシュパカを駆って天空を自在に駆け巡るという。

[原 實]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クベーラ」の意味・わかりやすい解説

クベーラ
Kubera

インド神話における北方の守護神,財宝の神。ベーダ神話では単に魔族の王にすぎなかったが,叙事詩では非常に重要な神となった。バイシュラバナとも称され,アヒチトラー出土の像やサンチー第1塔西門柱頭のクベーラ像など,太鼓腹と短い足の矮人として表現される。ヒマラヤ山中のカイラーサ山頂に住み,アラカー城に都してガンダルバ,ヤクシャ,ラークシャサなどの半神半魔の諸族にかしずかれている。仏教神話にも取入れられ,音写で毘沙門天といい,多聞天と漢訳される。

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世界大百科事典(旧版)内のクベーラの言及

【カイラーサ[山]】より

…インドの叙事詩やプラーナでは,この山はシバŚiva神の住居として,その麓にあるマーナサ湖とともにしばしば登場する。また,世界の四守護神の一つで,北方をつかさどるクベーラKubera神(別名バイシュラバナVaiśravaṇa,毘沙門天(びしやもんてん))の宮殿もこの山にあるといわれる。仏教の宇宙論におけるスメールSumeru山(須弥山(しゆみせん))がこの山と同一視されることもしばしばある。…

【バニヤン】より

…願ったものをすべて与える〈如意樹〉としても現れ,バニヤンの樹の洞に入ると中には黄金の町があったという話もある。こうした観念はヤクシャの王である富の神クベーラの信仰とも結びつき,金貨を無限に生み出すクベーラの如意樹もバニヤンをモデルとしている。【高橋 明】。…

【ヒンドゥー教】より

…とくにシバ神の妃であるパールバティーは有力であり,慈愛に満ちた側面を示すときには,マハーデービー(大女神),サティー(貞女),ガウリー(白女)などと呼ばれ,恐ろしい側面を現すときにはドゥルガー(近寄り難い者),カーリー(黒女),チャンディー(恐ろしい女)などと呼ばれる。そのほか,多数の神々が崇拝され,なかにはクベーラ(バイシュラバナ。日本では毘沙門天,多聞天となる),サラスバティー(弁才天といわれる)などのように,日本で崇拝されている神々もある。…

※「クベーラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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