夜叉(読み)ヤシャ

デジタル大辞泉 「夜叉」の意味・読み・例文・類語

やしゃ【夜叉】

《〈梵〉yakṣa音写》顔かたちが恐ろしく、性質猛悪インド鬼神仏教に取り入れられて仏法を守護する鬼神となり、毘沙門天眷族けんぞくとされる。八部衆の一。
[類語]阿修羅羅刹

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精選版 日本国語大辞典 「夜叉」の意味・読み・例文・類語

やしゃ【夜叉】

  1. [ 一 ] ( [梵語] yakṣa の音訳。薬叉とも。能敢、勇健などと訳す ) 仏語。容貌・姿が醜怪で猛悪な鬼神。後に仏教にとり入れられて八部衆の一つとされ、毘沙門天の眷属で、諸天の守護神となり、北方を護る。夜叉明王。夜叉神。〔秘蔵宝鑰(830頃)〕
    1. [初出の実例]「外の面は菩薩に似たれども、内の心は、やしゃの如し」(出典:曾我物語(南北朝頃)一二)
  2. [ 二 ] 室町期に越前で活躍した面打師の名。

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改訂新版 世界大百科事典 「夜叉」の意味・わかりやすい解説

夜叉 (やしゃ)

古代インド以来,威力ある神として崇められたヤクシャサンスクリットyakṣa,パーリ語yakkha)が仏教にとり入れられたもの。漢訳仏典では薬叉(やくしや),悦叉,野叉など音写し,捷疾,捷疾鬼,軽疾,勇健などに訳される。仏法を守護する鬼類で羅刹(らせつ)と併称され,また八部衆の一つに数えられる。諸経典によって異なった特色が説かれ,人を畏怖させる異形であったり,人の精気を奪い,または人を食うなどさまざまな性格を兼ね備えた鬼類と考えられていたことが知られる。ヤクシャはベーダが作られた時代(前2000-前500ころ)には早くも守護神として現れ,ヤクシャの女神であるヤクシーは,さらに古い時代から山や樹木の精,あるいは生産力の象徴である地母神として信仰された著名な存在であった。ヤクシーはヤクシニー(薬叱尼,薬廁抳)ともいわれ,樹下に立つ豊かな肉身の美人像として表現され,インド美術を代表する傑作が多い。両者とも仏教の初期から仏教世界に登場し,サーンチーの塔門(前2世紀ころ)やバールフットの欄楯(らんじゆん)(前1世紀ころ)に守門神的な性格の尊像として表現されている。しかし,漢訳仏典により中国や日本に紹介された夜叉は,悪人を食い善人を守護する鬼類とされたり,毘沙門(びしやもん)天の眷属(けんぞく)として忉利(とうり)天において諸天を守るもの,または北方に位置する毘沙門天の眷属であることから衆生の北方を守るものと説かれるなど,守護神としての特色は明瞭に現れている。ことに〈薬師本願経〉には十二夜叉大将すなわち十二神将が,また〈陀羅尼集経〉には十六大薬叉将すなわち般若十六善神が夜叉として説かれている。十二神将も般若十六善神も,中国以東の仏教美術においては中国風に甲冑で武装した武将形に表現される例が多く,守護神という性格を端的に武人の姿に託したことが知られる。なお,日本においては夜叉だけが単独に信仰され造像された例は知られていない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「夜叉」の意味・わかりやすい解説

夜叉
やしゃ

サンスクリット語のヤクシャyaka、パーリ語のヤッカyakkhaの音写で、インド古代から知られる半神半鬼。もとは光のように速い者、祀(まつ)られる者を意味し、神聖な超自然的存在とみられたらしい。しばしば悪鬼羅刹(らせつ)とも同一視される。のちに仏教では、クベーラ神(毘沙門天(びしゃもんてん))の従者として、仏法を守護する八部衆(はちぶしゅう)の一つに位置づけられた。人に恩恵を与える寛大さと殺害する凶暴さとをあわせもつ性格から、その信仰には強い祈願と慰撫(いぶ)の儀礼を伴う場合が多い。なお夜叉女(やしゃにょ)(ヤクシニーyakiī)も地母(じぼ)神としての優しさと同時に残忍さをもつといわれている。

[片山一良]

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百科事典マイペディア 「夜叉」の意味・わかりやすい解説

夜叉【やしゃ】

サンスクリットのヤクシャの音写。薬叉,夜乞叉とも。能【かん】鬼(のうかんき),暴悪などと訳。羅刹(らせつ)と並び人を傷つけ,人肉を食う悪鬼。仏典では人の悪心を象徴する。また毘沙門(びしゃもん)天に属し,衆生守護の神にも夜叉がある。
→関連項目八部衆

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デジタル大辞泉プラス 「夜叉」の解説

夜叉

1985年公開の日本映画。監督:降旗康男、脚本:中村努、美術:今村力。出演:高倉健、いしだあゆみ、乙羽信子、田中裕子、ビートたけし、田中邦衛、奈良岡朋子ほか。第40回毎日映画コンクール美術賞受賞。第28回ブルーリボン賞助演男優賞(ビートたけし)受賞。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「夜叉」の解説

夜叉 やしゃ

?-? 南北朝-室町時代の能面師。
越前(えちぜん)(福井県)の人。仮面十作(じっさく)のひとり。世阿弥(ぜあみ)の「申楽(さるがく)談儀」に尉(じょう)面の作者として名がみえる。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「夜叉」の解説

夜叉 (ヤシャ)

植物。カバノキ科の落葉高木,園芸植物。ハンノキの別称

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世界大百科事典(旧版)内の夜叉の言及

【鬼】より

…この女神はのちに幼児の保護者となるが,改悛前の恐ろしい姿が鬼という言葉と結びつけられている。《長阿含経》第12〈大会経〉ではヤクシャYakṣa(薬叉,夜叉)が鬼と同類視されている。ヤクシャは森などにいて,善事もなすが,悪事もなす。…

【八部衆】より

…インドの美術ではコブラまたはコブラを頭につけた人間の姿で表される。(3)夜叉,薬叉(ヤクシャyakṣa) 森の神として福神と鬼神の両面をもつ。夜叉女(ヤクシーyakṣī,ヤクシニーyakṣiṇī)は多く豊満な裸女で表され,毘沙門天の部下とされる。…

※「夜叉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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