化学辞典 第2版 「スズ化合物」の解説
スズ化合物
スズカゴウブツ
tin compound
スズは酸化数2および4で,酸化物,硫化物,ハロゲン化物,硫酸塩をつくる.【Ⅰ】スズ(Ⅱ)化合物(tin(Ⅱ) compound,stannous compound):一般に酸化されやすく,多くの物質に対して還元剤としてはたらき,スズ(Ⅳ)化合物となる.酸化物SnⅡOは酸に可溶の暗緑色~黒色の粉末で空気中で熱すると酸化スズ(Ⅳ)SnⅣ O2にかわる.重要なスズ(Ⅱ)化合物は塩化物SnⅡ Cl2で,有機化学反応で使われる重要な還元剤である.水溶液は加水分解を起こし塩基性塩Sn(OH)Clを沈殿し,HClを遊離するので酸性を示す.スズ(Ⅱ)塩は共有結合とイオン結合の性質をあわせもっており,水溶液中に Sn2+ が存在する.この Sn2+ 溶液にアルカリを加えるとSnO・nH2Oが沈殿し,過剰のアルカリに溶けていわゆる亜スズ酸イオン,正しくはトリヒドロキソスズ(Ⅱ)酸イオン [SnⅡ(OH)3]- となる.気相中では,SnⅡ Cl2など SnⅡハロゲン(X)化物のX-Sn-X結合角はおよそ90°でp軌道に近い共有結合性を示し,エタノール,アセトン,エーテルにも溶解する.硫酸塩や塩化物は缶用鋼板などのスズめっき浴に用いられる.【Ⅱ】スズ(Ⅳ)化合物(tin(Ⅳ) compound,stannic compound):酸化スズ(Ⅳ)は天然にスズ石として産出する.両性で塩酸によってヘキサクロロスズ酸(Ⅳ)塩MⅠ2[SnⅣ Cl6],過剰のアルカリによってヘキサヒドロキソスズ(Ⅳ)酸塩MⅠ2[SnⅣ (OH)6]となる.塩化スズ(Ⅳ)は無色の発煙性液体で,四塩化炭素,二硫化硫黄,ベンゼン,トルエン,ピリジンなどと任意の割合で混合する.水溶液では加水分解してコロイド状のSnO2とHClになる.ハロゲン化物SnX4は気相・液相で四面体構造.スズ(Ⅳ)塩の多くは無色で,硝酸塩は水溶液中で加水分解する.Sn-C結合をもつ有機スズ化合物も安定に存在し,一般に,R4Sn,R3SnX,R2SnX2,RSnX3(Rはアルキル基またはアリール基,Xはハロゲン化物イオン)で表される多くの化合物がある.殺菌剤,殺虫剤,ポリ塩化ビニールの安定剤として用いられる.酸化スズインジウム(ITO)はフラットパネルディスプレイ,太陽電池の透明電極として多用される.有機スズ化合物は,PRTR法・第一種指定化学物質.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報