翻訳|ethanol
炭化水素の水素原子をヒドロキシ基-OHで置換した有機化合物をアルコール(類)と総称し、一般式R-OHで示される。エタノールはその代表的なもので、狭義では単にアルコールというとエタノールをさすことも多い。古くから知られていて、多くのアルコール飲料に含まれ、酒精、エチルアルコールともいわれる。酒酔いの原因がエタノールであることが判明したのは15世紀になってからである。組成はラボアジエらが測定し、ゲイ・リュサックらによって確定された。
[徳丸克己]
特有な香りと味のある無色の液体。水とも他のアルコールとも、またクロロホルムやエーテルなどの多くの有機溶媒とも任意の割合でよく混ざり合う。しかし水との混合物を蒸留しても、エタノールが水よりも20℃以上も沸点が低いのにもかかわらず、純粋のエタノールを得ることはできず、エタノール96.0%、水4.0%からなる共沸混合物が得られる。これから無水のエタノールを得るには、適当な脱水剤を加えて蒸留するか、あるいはベンゼンを加えて、ベンゼンと水の共沸現象を利用して蒸留する。燃えやすく、発火すると色のない炎をあげる。蒸気に引火すると爆発することもある。
酸化されるとアセトアルデヒドを経て酢酸となる。タンパク質を凝固させる作用があるので、殺菌作用があり、その効果は70%水溶液がもっとも高い。天然にはカルボン酸のエチルエステルの形で存在し、遊離のエタノールの形ではほとんど存在しない。
[徳丸克己]
古くから酵母によりデンプンや糖を発酵させる方法で製造されており、現在でも飲用される酒類は大部分この方法で製造されている。しかし発酵法では、原料の糖の炭素の半分が二酸化炭素としてむだに放出され、また原料の価格の変動もあるので、石油から得られるエチレンを原料とする合成法が盛んに用いられるようになった。
合成法としては、エチレンを硫酸に吸収させてエタノールの硫酸エステルとし、これを加水分解してエタノールをジエチルエーテルとともに得る方法(硫酸加水法)がある。この方法は、原料のエチレンの96%がエタノールとジエチルエーテルに変換する点で効率がよいが、多量の硫酸を用いる点に問題があった。これにかわって、気相でエチレンを固体のリン酸触媒上で接触的に水蒸気と反応させ直接エタノールを合成する方法が用いられるようになった(直接水和法)。エチレンと水蒸気からのエタノール生成の平衡は圧力が高いほど、また温度は高くないほうがエタノール生成に有利であるので、70気圧、300℃程度で反応を行う。
[徳丸克己]
酒類はエタノールを含み、飲料として用いられる。たとえば、通常、日本酒は15~16%、ビールは3~8%、ぶどう酒は7~14%、ウイスキーやブランデーなどの蒸留酒は35~55%のエタノールを含有している。エタノールはかつてアセトアルデヒド、さらにそれから酢酸を合成する原料として利用されたが、この方式は現在エチレンからの直接水和法にとってかわった。現在エタノールは溶剤としての酢酸エチルの原料、あるいはそのまま溶剤として用いられる。
また工業用アルコールは無税で、飲料用は有税であるので、これを区別するために、工業用には毒性の強いメタノール(メチルアルコール)を少量添加して変性アルコールとし、飲料として用いられるのを防止している。
[徳丸克己]
日本薬局方にはエタノール、無水エタノール、消毒用エタノールの3品目が収載されている。エタノールの濃度は95.1~95.6%、無水エタノールは99.5%以上とされ、チンキ剤、酒精剤、エリキシル剤、エキス剤、流エキス剤などの浸出剤や溶剤として用いられる。無水エタノールは、三叉(さんさ)神経痛や癌(がん)の末期など鎮痛剤では効かないような強い痛みに対して神経遮断(神経ブロック)を行うとき、注射として応用される。消毒用エタノールは前二者を精製水で希釈して76.9~81.4%にしたもので、手指や注射部位の皮膚の消毒によく用いられる。また、皮膚刺激剤として床ずれの予防に塗布することもある。器具の消毒などには不適である。
[幸保文治]
エタノール
CH3CH2OH
分子式 C2H6O
分子量 46.07
融点 -114.5℃
沸点 78.32℃
比重 0.789(測定温度20℃)
屈折率 (n)1.3623
表面張力 22.3dyn/cm(20℃,空気)
蒸発熱 229cal/g(0℃)
爆発限界 3.3~19vol%
C2H6O(46.07).CH3CH2OH.エチルアルコールともいう.脂肪族飽和アルコール類の一つ.単にアルコールともいわれる.酒の成分で酒精という名称もある.天然には,エチルエステルまたはエトキシ基C2H5O-としても存在する.工業的に,発酵法およびエテンへの水の付加などの方法で大規模に製造されている.特有の臭いと味のある無色の液体.融点-114.1 ℃,沸点78.32 ℃.0.78504.1.35941.爆発範囲3.3~19.0体積%.水,ほかのアルコール,エーテル,一般有機溶剤に可溶.水と共沸混合物をつくる.合成飲料,溶剤,燃料,有機合成原料,医薬用などに幅広く利用されている.なお,工業用アルコールには,これを飲料用に転用するのを防ぐために,毒性の強いメタノールが混入されており,とくに,変性アルコールとよばれる.[CAS 64-17-5]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
「エチルアルコール」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 個々のアルコールの慣用名は,一価アルコールでは水酸基と結合しているアルキル残基の名称の後に,アルコールを付記して,たとえばメチル基の場合をメチルアルコール,エチル基ではエチルアルコールのように命名する。IUPAC命名法では,水酸基に対して〈オールol〉という語尾を用い,たとえばメタンCH4に対応するCH3OHをメタノール,エタンC2H6に対応するアルコールはエタノールと命名する。二価アルコールは語尾をジオール,三価アルコールはトリオールとする。…
…単にアルコールとよばれることが多く,またエタノールethanolともいわれる。化学式C2H5OH。…
…芽胞にはほとんど効果がみられないが,栄養型の細菌や多くのウイルスを短時間に不活化することが知られてきた。日本では1873年に焼酎(しようちゆう)を再蒸留したのが,殺菌用のエチルアルコール(エタノール)製造の始まりといわれている。イソプロピルアルコール(イソプロパノール)は1951年有効性が報告され,日本では57年にプロピレンから工業的に生産を始めている。…
※「エタノール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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