改訂新版 世界大百科事典 「テンピェット」の意味・わかりやすい解説
テンピェット
Tempietto
小神殿を意味するイタリア語で,古代ローマ時代に多くの作例をみるが,固有名詞としては,ローマにあるブラマンテ作の円形プランの殉教記念堂をさす。高さ約14mのこの小堂は,スペイン王フェルナンド2世と后イサベルの依頼により,1502年ペテロの殉教地と信じられていたローマのサン・ピエトロ・イン・モントリオS.Pietro in Montorio修道院の中庭に建てられた。地下祭室,周柱式内陣,高い鼓胴部に支えられた球殻の3部分からなり,これらはそれぞれ地下墳墓,地上の教会,天上の教会を象徴する。柱式とドームを巧みに組み合わせた調和的構成,全体と細部にわたる厳密かつ明快な比例,初層のドリス式オーダーに代表される正しい古典的意匠のゆえに,ルネサンス建築の根幹をなす古典美と比例的調和の理念を具現した理想建築として,すでに同時代から賞賛されてきた。ロンドンのセント・ポール大聖堂,パリのサント・ジュヌビエーブ教会(パンテオン)の大ドームの意匠も,この円堂の外観に負うところが大きい。
執筆者:日高 健一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報