改訂新版 世界大百科事典 「パイエルス転移」の意味・わかりやすい解説
パイエルス転移 (パイエルスてんい)
Peierls transition
ヒ素族元素(ヒ素,アンチモン,ビスマス)の固体は,これらの原子が5価の電子価をもつため金属になることが予想されるが,わずかであるが,この系独特の結晶のひずみのため半金属となる。これを説明するためにイギリスのパイエルスRudolf Ernst Peierls(1907-95)が提唱した,金属的な物質で起こる構造相転移の一種をパイエルス転移という。フェルミ面の形状が特殊で,弱い周期ポテンシャルが加わったことによるバンドギャップがフェルミ面を消滅させやすい場合,電子系の運動エネルギー(すなわちバンドエネルギー)の減少は,結晶がひずむことによるポテンシャルエネルギーの損失に打ち勝ち,結果として自発的な結晶のひずみが生ずる。鎖状,あるいは層状構造をもつ低次元導体では,この転移が起こりやすく,現在では数多くの例が知られている。この転移に伴い,結晶の周期的なひずみに同調した電子の密度の周期的な変化(電荷密度波という)が生まれ,種々の興味ある物性を呈する。
執筆者:福山 秀敏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報