改訂新版 世界大百科事典 「フェルミ面」の意味・わかりやすい解説
フェルミ面 (フェルミめん)
Fermi surface
基底状態にある金属または半金属において,波数空間内で電子によって占められた部分の表面。バンド理論によれば,金属中の各電子の状態はそれぞれ一定の波数ベクトルkをもつ平面波によって表される。とりうるkの値は非常に稠密(ちゆうみつ)に分布しているが離散的であり,有限個しかない。一つのkの値には,パウリの原理のため,2個の電子しか収容できない。電子はこれらのkの状態をエネルギーの低いところから順に詰めていくが,全電子を詰め終えたとき,ちょうどフェルミ面まで詰まることになる。この面は等エネルギー面でもあり,対応するエネルギーをフェルミエネルギーFermi energyと呼ぶ。金属のフェルミエネルギーは熱エネルギーに比べてはるかに大きいので,多少温度が上がっても,フェルミ面近くの電子の詰まり方が少しぼやける程度であまり変化はない。自由な電子の場合,波数kでの運動エネルギーは,ℏkが運動量なので,(ℏk)2/2mとなる(mは電子の質量,ℏはプランク定数を2πで割ったもの)。エネルギーがkの方向によらないので,この場合のフェルミ面は球面になり,その半径は(3π2N)1/3である(Nは単位体積当りの電子数)。アルカリ金属(Na,K,Rbなど)の伝導電子は自由電子に近く,そのフェルミ面もほぼ球状である。しかしそれ以外の1価金属や,さらに一般に多価金属の場合には,バンド構造,とくにブリュアン域の存在が大きく影響し,フェルミ面の形も球面とはほど遠く,ときにはかなり奇怪な形になる。フェルミ面の形状はいろいろの物理現象でその姿を現すが,とくにド・ハース=ファン・アルフェン効果やこれと関連のド・ハース=シューブニコフ効果などにはっきり現れる。これらの実験結果と理論的考察によるフェルミ面形状の研究をフェルミオロジーfermiologyと呼んでいる。
→バンド構造
執筆者:黒沢 達美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報