ボーエン(Elizabeth Dorothea Cole Bowen)(読み)ぼーえん(英語表記)Elizabeth Dorothea Cole Bowen

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ボーエン(Elizabeth Dorothea Cole Bowen)
ぼーえん
Elizabeth Dorothea Cole Bowen
(1899―1973)

イギリスの女流小説家。アイルランドの由緒ある地主の家にひとり娘として生まれる。ケントのダウン・ハウス校を卒業し、19歳から家を出てロンドンやイタリアで自活。1923年アラン・キャメロンと結婚し、オックスフォード近郊に定住した。第二次世界大戦中はロンドンの情報省に勤務し、夜は防空警備員を務めたが、この体験は空襲警戒下のロンドンの雰囲気をみごとに記録した『日ざかり』(1949)に反映されている。処女作は27年の『ホテル』。代表作にはほかに『パリの家』(1935)、『心の死』(1938)、『愛の世界』(1955)などがある。また優れた短編作家としても名高く、六冊に上る短編集がある。彼女の作品には、アイルランド、イングランドの地主階級の伝統的な生活意識と、大都会で因習的な道徳の殻を破って自立を求める若い女性の孤独な意識とが、対照的に提示されることが多い。技法的には、20年代の実験的小説の流れの外に立ちながら、詩的結晶度の高い文体、タイム・シフトを用いた緊密な構成、微妙な心理描写、とくに、鮮やかで印象的な場面描写を特徴とし、H・ジェームズやV・ウルフとの類似がしばしば指摘される。

[佐野 晃]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例