道徳(読み)ドウトク

デジタル大辞泉 「道徳」の意味・読み・例文・類語

どう‐とく〔ダウ‐〕【道徳】

人々が、善悪をわきまえて正しい行為をなすために、守り従わねばならない規範の総体。外面的・物理的強制を伴う法律と異なり、自発的に正しい行為へと促す内面的原理として働く。
小・中学校の教科の一。生命を大切にする心や善悪の判断などを学ぶもの。昭和33年(1958)に教科外活動の一つとして教育課程に設けられ、平成27年(2015)学習指導要領の改正に伴い「特別の教科」となった。
《道と徳を説くところから》老子の学。
[類語](1倫理道義徳義人倫人道世道公道公徳正義規範大義仁義みちモラルモラリティー

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精選版 日本国語大辞典 「道徳」の意味・読み・例文・類語

どう‐とくダウ‥【道徳】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 人間がそれに従って行為すべき正当な原理(道)と、その原理に従って行為できるように育成された人間の習慣(徳)。はじめ慣習、風習、習俗の中に現われるが、人間の批判的な自覚の高まりとともに、慣習や習俗を批判し反省しながら、慣習から分化した精神的規範や規準として現われる。
    1. [初出の実例]「道徳仁義、因礼、礼乃弘」(出典:続日本紀‐慶雲三年(706)三月丙辰)
    2. [その他の文献]〔易経‐説卦〕
  3. 学道を修めた人の徳。
    1. [初出の実例]「前夕小雨洒。今晨果日晴。国師道徳所致、尤希有之由」(出典:蔭凉軒日録‐寛正三年(1462)九月二九日)
  4. 小・中学校の教育課程の一領域。行動の善悪・正邪の基本を養うことを目的とする。
    1. [初出の実例]「道徳の時間においては」(出典:小学校学習指導要領(昭和三三年)(1958)一)
  5. 老子の説いた恬淡虚無(てんたんきょむ)の学。もっぱら道と徳を説くところからいう。〔史記‐老子伝〕

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改訂新版 世界大百科事典 「道徳」の意味・わかりやすい解説

道徳 (どうとく)

こんにちの用法では倫理という語と根本的な相違はない。倫とは仲間を意味し,人倫といえば,畜生や禽獣のあり方との対比において,人間特有の共同生活の種々のあり方を意味する。倫理とは,そういう人倫の原理を意味し,道徳もほぼ同様であるが,いずれかといえば原理そのものよりも,その体得に重点がある。すなわち,道とは人倫を成立させる道理として,倫理とほぼ同義であり,それを体得している状態がであるが,道徳といえば,倫理とほぼ同義的に用いられながらも,徳という意味合いを強く含意する。道徳と倫理の両語とも,現今では近代ヨーロッパ語(たとえば英語のmorality,ethics,ドイツ語のMoralität,Sittlichkeit,Ethik,フランス語のmorale,éthique)の訳語としての意味が強いが,これらの語はたいていギリシア語のエトスethosないしはエートスēthos,あるいはラテン語のモレスmores(mosの複数形)に由来する。ēthosという語は,第1に,たいていは複数形のēthēで用いられて,住み慣れた場所,住い,故郷を意味し,第2に,同じくたいていは複数形で,集団の慣習や慣行を意味し,第3に,そういう慣習や慣行によって育成された個人の道徳意識,道徳的な心情や態度や性格,ないしは道徳性そのものを意味する。ethosという語はとくに第2の意味を,そしてmoresという語は第2および第3の意味を有する。モラルという日本語をも含め,総じて近代語においては,第3の意味に重点がある。

 道徳に関する哲学は倫理学(英語ではethics,ドイツ語ではEthik),あるいは道徳学(ドイツ語ではMoral),道徳哲学(英語ではmoral philosophy)と呼ばれる。moral philosophyは近代イギリスでは元来は精神哲学というほどの広い意味のものであり,たとえばA.スミスグラスゴー大学で講義したそれは,神学,倫理学(《道徳感情論》),法学,および経済学という四つの部分から成り立っていた。道徳は,人間存在が個人的にして同時に共同的な存在であるかぎりにおいて,宗教や法や経済などと密接に関連しながらもその純粋形態においてはそれらから区別されるべき,一つの根源的現象である。個々の人間は,とりわけ良心の責めという現象において,おのれ自身の行為や人格の善悪の区別を体験する。あらゆる諸民族の文化生活において,道徳的命法,行為規範,道徳的価値規準などが存在し,それらにしたがって,ある種の行為は称賛すべきものとして是認され,あるいは義務として命じられ,他の種の行為は非難すべきものとして否認され禁止される,ないしは,人間自身とその態度や言動が端的に善あるいは悪として評価される。その種の事柄について,それを事実として記述し分析する種々の社会科学(たとえば,文化史,文化人類学,社会学など)とか,その種の価値評価の成立を心理的に説明する道徳心理学とかとは異なり,倫理学としての道徳哲学は,道徳現象の究極的な根拠を問い,道徳の形而上学に到達しようとする。それはさらに,規範学的な実践哲学として,個人的にして同時に共同的な人間の行為の,普遍的および特殊的な道徳的諸規範の意味とその客観的な妥当性基礎づけようとする。したがってその方法は,道徳的経験によって与えられたものについての哲学的反省である。

 道徳は,原理的には,人間存在の根本理法であり,何よりもまず,単なる自然存在の理法から区別されるべきものであるが,原初的には,自然存在と一体化した人間存在の慣習的なあり方に内含されたかたちで現れる。そこでは道徳はいまだ宗教的生活に付随しており,人間の法的・経済的なあり方とも融合している。それらから区別されて,まさしく人間としての人間の内面的なあるべきあり方がその純粋形態において自覚されるにいたるとき,道徳としての道徳という問題が成立する。この問題の最も基本的な原理は自由の問題である。なぜなら,道徳は単なる自然存在の理法とは異なり,人間存在のあるべきあり方に関するものであるが,この当為(べき)は自由を前提にして初めて成り立ちうるからである。だが,無限的自由もまた当為を成立させえない。当為の前提としての自由は,人間としての人間に固有の有限的自由である。それは,個人が人倫に背反しようとする解放の自由と,個人が人倫に帰一しようとする自律の自由との相互否定的な関係において存立する。道徳という人間存在のこの根本理法は,社会的・歴史的に多様な具体的形態をとりながら,また時として種々の仮象的・偽善的な形態に堕しながら展開するが,道徳の本質的形態は,洋の古今東西を問わず,おのれ一個の例外を求めないという点に帰する。その点を踏まえながらも,各人が現実的状況のなかでいかにしておのれの本来的自己と成り行くかが,現代道徳の最も根本的な問題である。
倫理学
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「道徳」の意味・わかりやすい解説

道徳
どうとく
moral

道徳は「道」と「徳」からなるが、この場合の「道」とは世の中で人が従うべき道のことであり、「徳」とはそれを体得した状態のことである。すでに中国の古典にあることばで、たとえば『易経』のなかに、「(聖人は)道徳に和順して義を理(おさ)め、理を窮(きわ)め性を尽くして以(もっ)て命に至る」という表現がある。ここでは、道徳は天の道でもあって、人間の従うべき理法と自然の理法とが一体であることが示されている。

 ところで、道徳にあたる英語moral(日本でも道徳のかわりにモラルという表現がよく用いられる)は「習俗」を原義とするラテン語のmoresに由来する。この側面に注目すれば、道徳とは時代的、地域的に限定された特定の社会において成立している慣習的な掟(おきて)の総体とみることができる。したがって、いわゆる礼儀(エチケット)や作法(マナー)も、道徳の一部である。小・中学校に「道徳」の教科があるのも、一つにはこうした礼儀作法への躾(しつけ)が重視されているからであろう。

 17世紀のイギリスの哲学者ロックによると、行為の道徳的善悪は、行為が法に従っているか否かによって決まるが、その法には「神の法」と「市民法」と「世論の法」(「風習の法」)の別がある。神の法に従わない者は来世で罰せられ、市民法に従わない者は法的処罰を、世論の法に従わない者は世間から非難されるという制裁を受ける。ロックはここで広義の道徳について語っているが、普通、道徳とよばれているのは三番目の世論の法であり、二番目の法律としての法から区別される。もっとも法学者のなかには、法(法律)は人間が従うべき「最小限の道徳」であるという見方もあり、この場合には法も道徳のうちに含まれることになる。

 こうした慣習としての道徳は、ロックが世論の法とよぶように、世間の常識に支えられており、なぜそれに従わなければならないかといった反省を必要としない場合が多い。そこでアメリカの哲学者デューイは、慣習道徳と反省道徳とを区別した。反省道徳は道徳的善悪についての反省のうえにたった自律的な道徳で、場合によっては通用している慣習道徳を否定することもある。「道徳」と「倫理」はおおむね同じ意味で用いられるが、区別するとすれば、後者の反省道徳を倫理とよぶのが適切であろう。倫理学は、単に慣習道徳を記述するのではなく、反省道徳の立場にたって道徳の原理を探究する学問である。

[宇都宮芳明]

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普及版 字通 「道徳」の読み・字形・画数・意味

【道徳】どう(だう)とく

人倫の道。また、老子の道をいう。〔礼記、曲礼上〕仁義、禮に非ざればらず。

字通「道」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「道徳」の意味・わかりやすい解説

道徳
どうとく
moral

社会の成員によって承認され,かつ実現される倫理的諸価値ないし規範の総体。その原理は,主観的内面的規制原理として,主体のうちに現れる自然的本能,自己保全の欲求,名誉欲,権力欲,所有欲などの利己的,本能的欲求と正義,真理,愛,誠実,信頼,平等,国益などの普遍的ないし社会的諸価値の対立あるいは現実と理想の相克を調整し,社会的成員にふさわしい行為を選択するようにしむける。さらに道徳は内面に深く関わるものとして実存の重要な構成契機となり,個人の世界観に重大な影響を及ぼす。ヘーゲルは個人的主観的な道徳性と習慣や法律として客観化された道徳すなわち人倫とを区別している。

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世界大百科事典(旧版)内の道徳の言及

【中国哲学】より

…中国では文化の担当者が政治家・官吏であったため,学問が現実生活の必要に密着しすぎ,理論としての体系を構成することが不十分であった。哲学もまたその例外ではなく多くの場合,道徳学・政治学の域にとどまることが多かった。
[古代]
 孔子以前の文献としては《詩経》と《書経》があるが,そこには天が人格神・超越神として現れている。…

【徳治主義】より

…法律によって政治を行う法治主義に対して,道徳により治めるのが政治の根本だとする思想。中国の儒家が主張した。…

※「道徳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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