日本大百科全書(ニッポニカ) 「マタイ伝福音書」の意味・わかりやすい解説
マタイ伝福音書
またいでんふくいんしょ
『新約聖書』のなかの共観福音書の一つ。「マタイによる福音書」ともいう。「マルコ伝福音書」とイエスの語録資料(Q資料)とを利用しつつ、さらにマタイ特有の伝承を付け加えることによって編集された文書。内容は、誕生から宣教活動、受難を経て復活顕現に至るイエスの生涯を、マタイの視点に基づいて述べたものである。ここでは、『旧約聖書』からの引用の仕方に特徴がみられ、イエスは『旧約聖書』の預言を成就(じょうじゅ)する者として描かれている。さらに、そのイエスは同時に、教えを通して共同体を基礎づける者、教会の主でもある。福音書記者マタイは使徒マタイとは別人で、ギリシア語のできるユダヤ人キリスト教徒であったと考えられる。執筆の時期と場所は、80~100年ごろパレスチナとシリアの境界地域とするのが妥当であろう。
[土屋 博]