ロスタム(その他表記)Rostam

改訂新版 世界大百科事典 「ロスタム」の意味・わかりやすい解説

ロスタム
Rostam

ペルシア文学の建国叙事詩《シャー・ナーメ》における伝説上の英雄。ルスタムRustamとも呼ばれる。イラン神話上の王朝であるカヤーニー朝に属する一門のなかでとくに武勇に秀でた救国の士。古来イラン南東のシースターン地方の伝説としてササン朝期にはすでにイラン民衆に知られ,さらにトルコ,インド,パキスタン,中央アジアにまで伝えられた。ロスタム一門はこの地に遊牧したサカ族であるなどと論議の的になったこともある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロスタム」の意味・わかりやすい解説

ロスタム
Rustam

イランの伝説的英雄。その武勇伝フィルダウシーの『シャー・ナーメ (王書) 』の中心的部分をなす。それによると,ロスタムはシースターン北部のザーブリスターン地方の領主サームの子ザールとルーダーベの間に生れ,カヤーニー朝のカイ・クバード,カイ・カーウース,カイ・ホスローの3代に仕えて幾多の武勲をあげた。元来,ロスタムの英雄譚はザーブリスターン地方に古くから伝わる英雄伝説の一つで,ササン朝期からイラン人の間に広く語り伝えられたものであるが,フィルダウシーによって他のイランの諸伝説とともに再構成されたと考えられる。その物語は中世におけるイラン文化の発展に伴い,イラン,アフガニスタンを越えて中央アジア,インド,小アジアにまで伝えられ,今日でも彼の名は広く知られている。

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世界大百科事典(旧版)内のロスタムの言及

【シャー・ナーメ】より

…単なる王者の治世記録ではなく,史料的価値は乏しく,文学作品として優れ,ペルシア文学最高傑作の一つに数えられる。勇者ロスタムの活躍をはじめ,多くの武勇伝,ロマンス,悲劇に満ち,宿命論が作品の基調をなし,この書を読むことはイラン人の義務とさえいわれ,最大の文化遺産とされている。【黒柳 恒男】
[美術表現]
 この物語に基づく絵画的表現の最も古い例としては,後に他の物語と共に《シャー・ナーメ》に集成されたと考えられるロスタムにまつわる物語の描写があり,ペンジケント出土のソグド時代の壁画(7~8世紀)に描かれている。…

【腹】より

…これをまねてか,《神仙伝》は老子が胎内に72年(《芸文類聚》では81年)いた後に,母の左わき腹から生まれたとする説を述べている。また《シャー・ナーメ(王書)》によれば,イランの英雄ロスタムもブドウ酒で体が麻痺した母ルーダーベの右わき腹から生まれた。ローマのカエサルも母アウレリアのわき腹から生まれたとスエトニウスの《皇帝伝》にあり,大プリニウスもカエサルは母の腹を“切ってcaedere”生まれたからCaesarという名なのだと説明している(《博物誌》第7巻)。…

※「ロスタム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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