日本大百科全書(ニッポニカ) 「シャー・ナーメ」の意味・わかりやすい解説
シャー・ナーメ
しゃーなーめ
Shāh-nāme
「王書」を意味するペルシア語で、フィルドウスィーの筆になるイラン民族叙事詩。ササン朝最後の皇帝の命により、イラン諸王の歴史は7世紀前半に『ホダーイ・ナーマグ』と題して中世ペルシア語で編纂(へんさん)され、8世紀なかばにイブヌル・ムカッファーにより『ペルシア諸王伝』としてアラビア語に翻訳されたが、原典、訳書ともに散逸した。10世紀にイラン系サーマーン朝が樹立されると民族意識が高まり、イラン固有の神話、伝説、歴史を編纂する気運が生じ、10世紀前半に韻文、散文による数種の作品が出現したが、これらもすべて散逸。10世紀後半、サーマーン朝宮廷詩人ダキーキーが同じ題材で制作に着手したが、1000句の段階で殺害され未完に終わった。アブー・マンスールの命により957年に完成した散文『王書』に主として拠(よ)り、三十有余年かけて完成した作品がイランの誇る民族詩人フィルドウスィーの『シャー・ナーメ』である。約6万句からなるこの叙事詩は人類の祖、最初の王カユーマルスからササン朝最後の王に至る神話、伝説、歴史を収める。イラン民族最大の文化遺産として、ペルシア文学最高傑作の一つに数えられている。
[黒柳恒男]
『黒柳恒男訳『王書』(1969・平凡社)』▽『黒柳恒男訳編『ペルシアの神話――王書より』(1980・泰流社)』