日本大百科全書(ニッポニカ) 「不動利益縁起」の意味・わかりやすい解説
不動利益縁起
ふどうりやくえんぎ
不動明王の霊験(れいげん)を扱った絵巻。「泣(なき)不動縁起」「証空絵詞(えことば)」などともよばれる。三井寺(みいでら)の僧智興(ちこう)が重病にかかり、弟子の証空が身代りとなって安倍晴明(あべのせいめい)の祈祷(きとう)により師の病を受ける。しかし証空が日ごろ信仰していた絵像の不動明王は目から涙を流してその志を哀れみ、自ら証空にかわって病を受け、師弟ともども救われる。不動は縛られて冥府(めいふ)に引かれるが、閻魔(えんま)王らはかえってこれを拝し、不動は白雲に乗じて帰還する、という話を描く。東京国立博物館の一巻は鎌倉時代(14世紀)の作で、遺品中もっとも古いものであるが巻首を欠く。また、京都・清浄華院(しょうじょうけいん)の一巻は室町時代(15世紀)の作であるが、完結本である。
[村重 寧]