改訂新版 世界大百科事典 「争いの木」の意味・わかりやすい解説
争いの木 (あらそいのき)
特定の木を望見して,その名を言い争うという伝説。例はさほど多くない。《新編武蔵風土記稿》に,東京田端の白鬚(しらひげ)社の神木は遠くから望むと松のように見え,松だ杉だと言い争うということで〈争いの杉〉と呼ぶと記されている。またこの杉は,源頼朝の奥州征伐の際に畠山重忠が松だといって従臣と争ったともいう。同じ田端の道灌山に同様の伝説がある。むかし,太田道灌が一人の侍と遠くにある木を眺めて,杉だ松だと争った。近づいて見ると杉であった。侍はこれを恥じて自害したという。また一説に,この争いの杉は木の幹が二つに分かれていて互いに争うように見えるので,この名があるともいう。神木や著しく形状の異なる樹木にこうした伝えがあるのは,その木が特別視されていたからである。かつてはそれによって神意を占ったものと考えられている。
執筆者:花部 英雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報