改訂新版 世界大百科事典 「亥子餅」の意味・わかりやすい解説
亥子餅 (いのこもち)
猪子餅とも書く。旧暦10月の亥の日に作られる餅。〈亥子のぼたもち〉といい,新米でぼたもちを作る所も多い。亥子を祝いにきた子どもたちにやったり,春の田植を手伝ってくれた人にも配って秋の収穫を感謝する。宮中でも9世紀中ごろから亥子餅が作られた。玄猪(げんちよ)ともいい,宮中の男や女房などにも与えられた。また,これを錦に包んで夜の御殿の四隅にさした。猪の形をしたものも作られた。大豆,アズキ,ササゲ(大角豆),ゴマ,栗,柿,糖が材料である。室町時代から江戸時代にかけては大坂の能勢(のせ)の木代,大丸,切畑の各村から亥子餅が亥の日の亥の刻に宮中へ献上されていた。糯米(もちごめ)とアズキを混ぜてこねて作ったもので,薄紅色をしている。これを長さ6寸5分(約19.7cm),幅4寸(約12cm),深さ2寸(約6.1cm)の箱に入れ,その四隅と中央に栗を置きクマザサでおおって献上した。内侍の女房もこの夜に餅をついた。猪の多産にあやかるためといわれる。
執筆者:田中 久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報