改訂新版 世界大百科事典 「人間的自由の本質」の意味・わかりやすい解説
人間的自由の本質 (にんげんてきじゆうのほんしつ)
Philosophische Untersuchungen über das Wesen der menschlichen Freiheit
シェリング34歳のとき(1809)の,同一哲学から積極哲学への移行期に書かれた著作。正式の標題は《人間的自由の本質およびそれと関連する諸対象に関する哲学的諸探求》。善なる創造主・神のもとで,悪の可能性を含む人間の自由がいかにして可能かという,弁神論の問題を論じている。スピノザの汎神論を有機体論的な自然観で乗り超えるとともに,神の人格性を復活させる神秘主義的傾向を示している。神は自分の実存の根拠を自己の内に持つ。根拠となる〈神の内の自然〉は,神自身ではない。被造物は,この根拠のゆえに神から区別され,自立・自由が可能になる。神の世界支配という前提の下でいかにして人間の自立・自由が可能であるかを説いた異色の自由論である。ハイデッガーへの影響もあり,実存主義の先駆的著作とみなされるが,人間が理性の下にとらえられている点で,根本的に両者は異質である。
執筆者:加藤 尚武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報