翻訳|pantheism
いっさいのものは神であり,神と世界とは一つであるという哲学説をいい,二つの型がある。(1)神のみが実在的であり,世界は神の表現または流出の総体にすぎず,それ自体としては実在性をもたないとするもので,無世界論につながる。(2)世界のみが実在的であって,神は存在するものの総体にすぎないとするもの。自然主義的または唯物論的汎神論と呼ばれ,無神論につながる。また,以上のような哲学説とは別に,自然を生きた統一として表象し崇敬する文学的態度も汎神論といわれる。
〈汎神論〉という語は1705年にJ.トーランドによってつくられたが,汎神論的思想はきわめて古くからインド,中国などにも存在している。朱子学はすぐれて汎神論的な体系であると言われる。古代西洋ではストア哲学が汎神論であった。新プラトン主義は汎神論ではないが,後世の汎神論に大きな影響を与えた。中世にもニコラウス・クサヌスなどが汎神論を展開した。ルネサンス時代には新プラトン主義の影響のもとにP.ポンポナッツィやG.ブルーノの汎神論が形成された。しかし,汎神論のもっとも完全な体系的表現はスピノザ哲学であるといわれる。近世をつうじて,汎神論はキリスト教の正統から変装した無神論として非難され,スピノザを極悪の無神論者と見る見解が支配的であった。
1785年,F.H.ヤコビとM.メンデルスゾーンとの間でG.E.レッシングがスピノザ主義者であったか否かについて論争がはじまり,カント哲学の評価ともからんでドイツの知識人の非常な関心をひき,ヘルダー,ゲーテ,カントをもまきこみ,〈神即自然〉というスピノザ思想の再評価をめぐる大論争に発展し,その過程でスピノザの名誉回復がおこなわれ,ゲーテやヘルダーは彼の影響のもとに汎神論的思想を形成した。これを汎神論論争という。この論争はドイツ・ロマン主義とフィヒテ,シェリング,ヘーゲルの哲学の形成にとってきわめて大きな意義をもっていた。今世紀に入ってからは,A.N.ホワイトヘッドが汎神論的な性格をもつ形而上学をうち立てた。
執筆者:竹内 良知
インドでは,古くウパニシャッドの時代から,この世のすべて,つまり個我と物質世界はブラフマンが変化して現れたものであるとの考えが行われてきた。すなわち,最高原理であるブラフマンが,現象の世界に遍在するとされていた。この考えを哲学的に整備したのは,主としてベーダーンタ学派であるが,解釈の仕方は流派によってやや異なる。たとえば,不二一元論を唱えたシャンカラによれば,個我は実はブラフマンにほかならない。そして,輪廻および輪廻する個我が体験する物質世界は,無明,幻(マーヤー)の所産にすぎないという。つまり,ブラフマンのみが実在し,世界は虚妄であるという。これに対して,被限定者不二一元論を唱えたラーマーヌジャによれば,ブラフマンと個我と物質世界はすべて実在するものであり,性質をまったく異にしているから不一であるが,別の面からすれば個我と物質世界はブラフマンの様相であり,ブラフマンを限定している。この限定されたブラフマンは,限定者である個我,物質世界と切り離して考えることはできず,したがって不二であるという。
執筆者:宮元 啓一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
存在するものの総体(世界・宇宙・自然)は一に帰着し、かつこの一者は神であるとする思想をいう。「一にして全(ヘン・カイ・パン)」「梵我一如(ぼんがいちにょ)」「神即自然」などが標語として用いられる。世界そのものが神であるとするから、有神論のように世界の外にある神と被造的世界との絶対的対立を認めず、すべてのものは神の現象であり、あるいは神を内に含むとする点で、創造以後は神は被造物に干渉しないとする理神論と異なる。神を世界を統一する普遍的原理、法則性として考える点で合理的側面をもつが、その反面で自我の神への帰入、主観と客観との絶対的合一を説いて神秘主義に至りやすい。神と世界とについて明確な概念が形成された後で登場するのが普通である。ウパニシャッド、古代ギリシアの一部に最初にみられる。西欧近世以降のブルーノ、スピノザ、ドイツ観念論とその周辺の思想家たちの汎神論的思想は、宗教の非合理性を排して、近代自然科学と調和させようという意図で築かれたものである。
[藤澤賢一郎]
『ブルーノ著、清水純一訳『無限、宇宙と諸世界について』(1967・現代思潮社/岩波文庫)』▽『ベーメ著、征矢野晃雄訳『黎明(アウロラ)』(1976・牧神社)』▽『スピノザ著、畠中尚志訳『エチカ』(岩波文庫)』▽『ヘルダー著、植田敏郎訳『神についての会話』(1968・第三書房)』▽『フィヒテ著、高橋亘訳『浄福なる生への指教』(岩波文庫)』▽『ヘーゲル著、木場深定訳『宗教哲学』全五冊(1950~59・岩波書店)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
神の超越性を強調するキリスト教に対し,神と自然の一致,同一性を説くもの。キリスト教からみれば,無神論と同じ異端で,ジォルダーノ・ブルーノ,スピノザのように宗教的迫害が加えられた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
… その第1は,世界の諸宗教を多神か一神かによって整理しようとする考え方である。すなわち,主として古代国家の宗教にみられる多神教polytheism(ギリシア,ローマ,エジプト,日本),多神のうち時に応じて特定の一神を重要視する単一神教henotheismや交替神教kathenotheism(古代インドのベーダ宗教),ただ一柱の神のみを絶対視する一神教monotheism(ユダヤ教,キリスト教,イスラム教),そしていっさいの存在物に神的なものの内在を想定する汎神教(論)pantheism(仏教)という分類がそれである。その第2は,神を人格的(形態的)存在と非人格的(非形態的)存在との2種に分ける考え方である。…
…このような自己の徹底的な死と復活である脱我的合一が神秘体験の宗教的核心をなす。この点で神秘主義は,絶対者を世界のうちにみる世界観としての汎神論から区別される。神秘主義がその世界観として汎神論を採ることはあっても,汎神論は直ちに神秘主義ではない。…
※「汎神論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新