実存(読み)じつぞん(英語表記)existentia

精選版 日本国語大辞典 「実存」の意味・読み・例文・類語

じつ‐ぞん【実存】

〘名〙
実際にこの世に存在すること。実在
※厭世詩家と女性(1892)〈北村透谷〉「今日といふ現在は幾代にも亙る可(べき)実存(ジッソン)の如くに感じ」
② (existence訳語) スコラ哲学で、事物本質は一般的なものとして考えられるのに対して、事物が現実に存在することそれ自体をいう。現実存在。
実存哲学で、特に、人間が自分の存在を問題にし、自己を失っているような状態から脱して、真に自己であろうと努力するあり方をいう。自覚存在
ネオヒューマニズムの問題と文学(1933)〈三木清〉三「この詩人的哲学者が自己の生と実存とを追求して」

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デジタル大辞泉 「実存」の意味・読み・例文・類語

じつ‐ぞん【実存】

[名](スル)
実際にこの世に存在すること。現実に存在すること。実在。「実存した人物
existence
㋐スコラ哲学で、可能的存在である本質に対し、実現された個体的存在。現実的存在。
実存主義で、特に人間的実存をいう。独自な存在者として自己の存在に関心をもちつつ存在する人間の主体的なあり方。自覚存在。
[類語]実在存在現存現在厳存げんそん存立所在既存そんする

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「実存」の意味・わかりやすい解説

実存
じつぞん
existentia

哲学,特に実存主義哲学の用語アリストテレス=スコラ哲学によれば実存は本質 essentiaに対する概念で,後者が事物の何であるかを内的に規定する形相原理であるのに対して,前者は事物一般が現実に存在することそれ自体をさす。したがってそれ自体は定義しえない。実存哲学では措定する,外に立つ ex-sistere点が強調され,現存するものの個別性,具体性がその本質よりも優位にあるとされた。さらにこの意味での実存が真に意味をもつ,人間の実存が注視され,実存哲学での実存とは人間実存をのみさすようになった。実存をこのような意味で用いた代表的人物はキルケゴールサルトルなどである。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「実存」の意味・わかりやすい解説

実存
じつぞん

実存哲学

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世界大百科事典(旧版)内の実存の言及

【意識】より

…ちなみに,西周の邦訳した前述のヘーブンも,意識を〈みずからの諸現象を認知している心の状態ないし作用〉と定義している。このような意味での意識をとくに重視するものに,現代の実存主義の哲学がある。例えばハイデッガーは,人間特有の在り方を〈前存在論的〉な〈自己了解〉にあるとみなし,そうした在り方を〈実存〉と呼んだが,サルトルも,いわゆる無意識とは実は〈非定立的自己意識〉,すなわち非主題的,非対象的な自己意識にほかならないとして,無意識の存在を否定し,人間の根源的自由を力説した。…

【キルケゴール】より

… 43年以降は,学位論文で確認した〈ソクラテス的アイロニー〉のもつ否定的弁証法を著作活動に生かし,実名で刊行した多くの宗教講話に並べて,偽名で《あれか―これか》《反復》(以上1843),《哲学的断片》《不安の概念》(以上1844),《哲学的断片への後書》(1846),《死に至る病》(1849),《キリスト教における修練》(1850)などの文学的・哲学的・宗教的な著作を発表。大地震体験における罪の内面深化とレギーネ体験に基づく愛の内的反復とが,これらの作品を通して〈いかにして真のキリスト者になるか〉という課題に昇華され,当時のヘーゲル主義的思弁の哲学や神学に対して,主体的な実存の立場を打ち出すこととなった。その間,46年には風刺的大衆誌《コルサール(海賊)》の人身攻撃にあい,9ヵ月に及ぶ執拗な漫画入り嘲笑記事のために衆人の侮辱を浴びた。…

【コギト】より

…以来,精神や自我とコギトとのかかわりをめぐってさまざまな論議が戦わされて今日に至っている。 (1)コギトを重んずる現代の哲学としては,何よりもまず実存主義の哲学があげられる。例えばハイデッガーは,人間をたえず〈前存在論的〉に〈自己了解〉しているものととらえ,そうした人間の在り方を〈実存〉と呼んだが,サルトルはそのような自己了解を〈非定立的自己意識〉と規定して,実存をコギトに直結させようとした。…

【自然法】より


[古代,中世における自然法]
 伝統的な存在論哲学では自然法は,人間の〈存在〉充足に関連していて,それは人間存在充足の形而上学的条件である。つまり人間をもしそれが何であるか,と問う観点からみれば人間の〈本質essentia〉が問われ,同じ人間をそれは存在するかどうかを問う観点では人間の〈実存existentia〉が尋ねられているのであるが,個々の具体的な人間は,この本質と実存との不可分的合体である。そしてプラトンはこの本質をイデアと呼び,アリストテレスやトマス・アクイナスはこれを形相(エイドス)と呼んだ。…

【実存主義】より

…人間の本来的なあり方を主体的な実存に求める立場。実存existence(existentia)とは現実存在の意であり,元来は中世のスコラ哲学で本質essence(essentia)の対概念として用いられた表現である。…

【生の哲学】より

…20世紀前半を代表する哲学の一分野で,実存の哲学の前段階を成す。理性を強調する合理主義の哲学に対し,知性のみならず情意的なものをも含む人間の本質,すなわち精神的な生に基づく哲学が〈生の哲学〉であり,ベルグソン,R.オイケン,ディルタイ,ジンメル,オルテガ・イ・ガセットなどを代表とする。…

※「実存」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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