日本大百科全書(ニッポニカ) 「佚存書」の意味・わかりやすい解説
佚存書
いっそんしょ
中国の古典のうち、古くから中国には失われて現存せず、かえって日本にのみ伝存している書籍をいう。たとえば唐の魏徴(ぎちょう)が編集した『群書治要』は本国ではすでに宋(そう)代に失われたが、鎌倉時代の金沢文庫や江戸幕府の紅葉山(もみじやま)文庫に保存していたので、現代まで伝わった。そのほか『周易新講義』『古文孝経』『五行大義』『文館詞林』なども有名な佚存書である。江戸時代に林述斎(はやしじゅっさい)は佚存書17部を集めて『佚存叢書(そうしょ)』60冊を刊行し、これが輸出されて清(しん)朝の学界を驚かせた。その後、神田喜一郎と長澤規矩也(きくや)がさらに多数の佚存書を検出して、1933年(昭和8)に『佚存書目』1冊を編集・刊行した。
[福井 保]