文庫(読み)ブンコ(その他表記)(1)(3)library (2)bunko

デジタル大辞泉 「文庫」の意味・読み・例文・類語

ぶん‐こ【文庫】

《「ふみぐら」を音読みにした語》
書物や古文書などを入れておく倉庫。ふみぐら。書庫。
収集されてまとまった蔵書。また、ある目的で集められたひとまとまりの蔵書。「学級文庫
書籍や紙筆など手回り品を入れておく小箱。文匣ぶんこう手文庫
叢書シリーズなどにつける名。「学習文庫
文庫本」の略。
[類語](1物置納屋納戸倉庫土蔵穴蔵金蔵米蔵穀倉書庫/(4叢書シリーズライブラリー

ぶんこ【文庫】[書名]

文芸雑誌。明治28年(1895)8月創刊、明治43年(1910)8月廃刊。山県悌三郎主宰の投書雑誌「少年文庫」を前身とし、河井酔茗伊良子清白横瀬夜雨ら文庫派とよばれる多くの詩人を育成。

ふみ‐ぐら【文庫】

《「ふみくら」とも》書物を納めておく蔵。書庫。文殿ふどの。ぶんこ。

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精選版 日本国語大辞典 「文庫」の意味・読み・例文・類語

ぶん‐こ【文庫】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 「文庫(ふみぐら)」の音読み )
    1. 書籍・古文書を入れておくくら。書庫。ふみぐら。
      1. [初出の実例]「京方有火、〈略〉樋口町尻江家文庫、不開闔、万巻都書、片時為灰了」(出典:兵範記‐仁平三年(1153)四月一五日)
    2. 鎌倉幕府で、裁判の終了した訴陳状や証拠文書などを保管した所。ふどの。
      1. [初出の実例]「文庫とは引付評定事切文書等置所也」(出典:沙汰未練書(14C初))
    3. 書冊・雑品などを入れておく手箱。文庫箱。
      1. [初出の実例]「それよりへあがりて、ぶんこを請とりなんどし」(出典:仮名草子・都風俗鑑(1681)四)
    4. 江戸深川の遊里で、遊女が着替えなどを入れた箱。仕掛文庫。
      1. [初出の実例]「しかけぶんこといふは子どものきがへを入てもたせて来るぶんこ也」(出典:洒落本・仕懸文庫(1791)二)
    5. あるまとまった蔵書。「明治新聞雑誌文庫」「漱石文庫」
    6. 同じ種類などでまとめられた出版物に付ける名。叢書。「花嫁文庫」
    7. 廉価普及を目的とした小型本。同一の書店から継続して同一の型・装丁で発行される。
      1. [初出の実例]「この文庫は予約出版の方法を排したる」(出典:読書子に寄す(1927)〈岩波茂雄〉)
    8. 女子の帯の結び方の一つ。一般には文庫結びをいうが、上方ではだらりの帯の垂れの短いものをいう。
      1. [初出の実例]「お文庫に帯を締めて居たから」(出典:落語・高野違ひ(1895)〈四代目橘家円喬〉)
  2. [ 2 ] 文芸雑誌。明治二八年(一八九五)九月から同四三年八月まで刊行。投書雑誌「少年文庫」を前身とし、文学青年に発表の場を提供。特に詩欄は河井酔茗が指導し、伊良子清白・横瀬夜雨らが拠って文庫派を形成。

ふみ‐ぐら【文庫・文倉・書庫】

  1. 〘 名詞 〙ふどの(文殿)
    1. [初出の実例]「これはふみぐらならむ。昔累代の博士の家なりけるを、一枚書見えず」(出典:延宝版宇津保(970‐999頃)蔵開上)

ふ‐ぐら【文庫・書蔵】

  1. 〘 名詞 〙ふみぐら(文庫)

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図書館情報学用語辞典 第5版 「文庫」の解説

文庫

(1)和語の「ふみくら」に漢字をあてた語.本来は,文献,文書,記録類を保存した書庫.転じて,まとまった蔵書や図書館を指す.北条家の金沢文庫徳川幕府の紅葉山文庫,加賀前田家の尊経閣文庫,近代では,静嘉堂文庫,東洋文庫などが著名.(2)出版形態を指す語として,叢書や全集の類の総称として明治期に用いられた(例:帝国文庫,日本文庫).現在では,小型で携帯に便利な廉価な普及本の総称として用いられている(例:岩波文庫).(3)巡回文庫,自動車文庫,学級文庫など図書館活動の形態やそのコレクションを指したり,あるいは,家庭文庫,地域文庫およびその総称としての子ども文庫を指すこともある.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「文庫」の意味・わかりやすい解説

文庫(書庫)
ぶんこ

文庫は歴史的にみると、文献、文書、記録類を保存し、情報を管理・保管する機能をもち、ときには図書館、学校の役割を果たすことがあった。

 日本最古の文庫は有名な石上宅嗣(いそのかみやかつぐ)の芸亭(うんてい)である。宅嗣は奈良時代の人で、私邸を阿閦寺(あしゅくじ)とし、その一角に芸亭を置き、好学の徒に公開したという。これは私的な文庫であるが、律令(りつりょう)制下では、朝廷の太政官(だいじょうかん)正庁に文殿(ふどの)、外記(げき)庁に外記文殿、民部省に文庫など公的文庫が設けられ、公文書、公式の記録が保管され、政務のため使用された。院政期に入ると、荘園(しょうえん)整理のための新たな機関として記録所が設置されるが、その機関の性格からここには膨大な文書等が集積されたと考えられる。また院政のために院の御所にも文殿が設置された。鎌倉期にはこれらの記録所、文殿は裁判機関となる。

 一方、芸亭のような私的な文庫は律令制下から数多く存在したと思われるが、平安中期以降、律令制が解体し、国家の情報管理のシステムが崩壊し始めると、貴族・官人たちの家が公権を分掌し、私の文庫の機能が重要となった。貴族・官人たちはさまざまな文献を集め、先祖や他人の日記、家領(けりょう)の荘園関係文書を文庫に保管した。家長は文庫を管理し、その情報がその家の家運を左右したといっても過言ではない。有名な文庫としては官務小槻(かんむおづき)家の文庫、日野資業(ひのすけなり)の法界寺文庫、大江(おおえ)氏の江家(ごうけ)文庫などがあり、近衛(このえ)家の陽明(ようめい)文庫、冷泉(れいぜい)家の時雨亭(しぐれてい)文庫などは今日にまで及んでいる。

 また、武家でも鎌倉の官僚層では文庫をもつ者がいた。たとえば、問注所(もんちゅうじょ)の執事(しつじ)を務めた三善康信(みよしやすのぶ)の名越(なごえ)文庫、北条氏の一門金沢(かねさわ)氏の金沢文庫が著名である。ことに後者の金沢文庫は図書館的な機能ももったといわれる。金沢氏滅亡後は、金沢氏の別荘の持仏堂から発展した称名(しょうみょう)寺が管理し、そこに所蔵されていた文献の多くが今日まで伝存し、散逸はしているが、その多くは、称名寺の境内に建てられた神奈川県立金沢文庫に収蔵されている。このほか、文庫という名称は使わないが、寺社も文献、文書を集めた。ことに中世の寺院では、東寺(とうじ)、高野山(こうやさん)のように御影堂(みえいどう)などの堂舎に寺家の荘園経営の重要文書、文献などが納められ、貸し出しなども担当の僧侶(そうりょ)の管理の下で行われる場合があった。

 近世に入ると、幕府や大名や朝廷はもちろんであるが、さまざまな人々が文庫をもつようになった。まず幕府のものとしては徳川家康のつくった紅葉山(もみじやま)文庫、大名のものとしては加賀前田家の尊経閣(そんけいかく)文庫、朝廷では東山(ひがしやま)御文庫などが有名であるが、そのほか伊勢内宮(いせないくう)の林崎(はやしざき)文庫、同外宮(げくう)の豊宮崎(とよみやざき)文庫、北野の天満宮(てんまんぐう)文庫なども忘れてはならない。しかしなんといってもこの時代は、民間の文庫が重要な役割をもった時代である。儒学、蘭学(らんがく)が民間の塾で講じられ、京都の伊藤東涯(とうがい)の古義堂(こぎどう)文庫のような文庫が多くみられた。また文庫とまではいかないまでも、僧侶、神官、医者、村役人のなかには好学の者がおり、私の文庫をもち寺子屋、塾などを開き、教育に従事する者が数多くいた。

 近代に入ると、教育の普及に伴い文庫は人々にさらに身近なものとなり、多様化した。個人的な文庫が増加したことはもちろんであるが、公共の文庫、すなわち図書館、文書館などがつくられ、知識、情報がより多くの人々にまで公開されるようになった。

[飯沼賢司]

『小野則秋著『日本文庫史』(1942・教育図書)』


文庫(文芸雑誌)
ぶんこ

投書文芸雑誌。1895年(明治28)8月~1910年8月。通巻244冊。『少年文集』の後身。発行は初め少年園、のち内外出版協会。記者として河井酔茗(かわいすいめい)、小島烏水(うすい)、千葉江東(こうとう)らが在社。青少年のための詩歌、俳句、漢詩、小説などの投書を中心とした雑誌。とくに詩に特色をもち、酔茗、横瀬夜雨(やう)、伊良子清白(いらこせいはく)らの質朴な詩風が、文庫派と称されるに至った。ほかに烏水の文芸評論、山水紀行も特記される。寄稿家としては窪田空穂(くぼたうつぼ)、平井晩村(ばんそん)、三木露風(ろふう)、北原白秋(はくしゅう)ら数多い。最晩期は俳句雑誌に変貌(へんぼう)した。

[大屋幸世]

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改訂新版 世界大百科事典 「文庫」の意味・わかりやすい解説

文庫 (ぶんこ)

本来は書庫の意であるが,転じてまとまった蔵書や図書館をさす。なお,出版界では叢書名に〈文庫〉という名を付することが,近代以来の習慣として行われている。

大宝律令には図書寮のほか文殿,校書殿などの名が見られ,寺社では経を収納する経蔵を有していた。上代の個人文庫の始まりは,奈良時代末期に石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が邸内に設けた芸亭(うんてい)で,奈良県天理市に顕彰碑があるほか,遺構とみられるものが発見されている。ほかに菅原道真の紅梅殿,大江匡房の千種(ちぐさ)文庫,日野資業の法界寺文庫などがあったが,火災などで今日に伝わっていない。わずかに平安時代末期から京都冷泉(れいぜい)家に伝わった1200件余,約1万点にのぼる古文書類が伝存され,冷泉家時雨亭文庫として公開されている。鎌倉時代に入ると文庫を持つことができるのは武士階級となり,とくに北条実時から3代を費やして収集された金沢文庫,足利氏の創建した足利学校の文庫などが著名である。室町時代には,明との交易により多数の漢籍が輸入され,とくに東福寺の普門院書庫,同じく海蔵院文庫などが充実していた。近世に入ると,文治政策をしいた徳川家康が,駿河文庫および富士見亭文庫を設け,その遺蔵書を継いだ家光は,1640年(寛永17)ごろ,江戸城内に紅葉山(もみじやま)文庫(桐山文庫ともいう)をつくった。これは将軍専用の図書館であったが,江戸末期には約10万冊に達した。現在は内閣文庫として伝わっている。そのほか近世には水戸の彰考館文庫,加賀前田氏の尊経閣文庫,近衛家の陽明文庫など,大名や藩による文庫のほか,篤学者による文庫,たとえば堀河塾の古義堂文庫,屋代弘賢の不忍(しのばず)文庫などもふえた。これらは上層階級向けの閉鎖的なものだったが,医師板坂卜斎の浅草文庫は,庶民に開放されたものとして特筆さるべきである。近代では,南葵(なんき)文庫,蓬左(ほうさ)文庫,松廼舎(まつのや)文庫,静嘉堂文庫,東洋文庫などが著名。
図書館 →文庫本
執筆者:


文庫 (ぶんこ)

明治時代の文芸雑誌。1895年8月~1910年8月,通巻244冊。1888年創刊の《少年園》から分かれた《少年文庫》が前身だが,小説,評論,詩,短歌,俳句などの投稿誌,新人育成の場として勢力をもつようになり,特に詩人や歌人でこの雑誌を登竜門として,のちに一家をなした者の数はおびただしい。文庫派と別称される河井酔茗(すいめい),伊良子清白(いらこすずしろ),横瀬夜雨(よこせやう),有本芳水(ほうすい),塚原山百合(やまゆり)(のちの島木赤彦)らをはじめ,北原白秋,窪田空穂,三木露風,川路柳虹らの大家たちを輩出した。雑誌の雰囲気は新奇というより温和でクラシックな傾向だったが,明治大正の文学史上に果たした役割は無視できない。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「文庫」の意味・わかりやすい解説

文庫
ぶんこ

(1) 元来は和語の「ふみくら」で,現代流にいえば図書館である。代表的なのは足利文庫や金沢文庫,明治新聞雑誌文庫など。また,その文庫に所蔵される書物をも文庫と呼び,蔵書一般をもさすことがある。 (2) 近代的な出版業が興った明治期には,帝国文庫,日本文庫など,叢書や全集の類の総タイトルとして用いたことがある。しかし 1903年冨山房が,芳賀矢一のアイデアでドイツのレクラム文庫をまねて,袖珍名著文庫を出版しはじめた頃から,小型で安い普及本を「文庫本」または「文庫」と呼ぶようになった。 11年に登場した立川文庫がその代表である。 27年岩波書店が,三木清の協力と創意で再びレクラムに範をとって,古典中心の岩波文庫を創刊してから,文庫の判型 (最初は菊半截判,現在は A6判) が定着し,28年の新潮文庫,29年の改造文庫,第2次世界大戦後の角川文庫など次々と創刊された。

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百科事典マイペディア 「文庫」の意味・わかりやすい解説

文庫【ぶんこ】

(1)書物を収蔵する場所。書庫,図書館。金沢文庫など。(2)ある主題または個人の趣味で集められた図書のコレクション。岩崎文庫(岩崎家の集書),東洋文庫などはその例。(3)文庫本の略称。

文庫(服装)【ぶんこ】

女帯の結び方の一種。花嫁の掛下帯に結んだり,ゆかた帯,踊帯などの半幅帯で結ぶ。揚羽蝶(ちょう)結び,変りリボン結び,文庫くずしなど応用が多い。
→関連項目

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世界大百科事典(旧版)内の文庫の言及

【文庫本】より

…判型はA6判が一般的で,廉価普及を目的とし,読者層の拡大に寄与している。現在,文庫本の出版社は地方を含めて約40社あり,50種ほどの文庫本が刊行されている。〈文庫〉という名称は本来,書籍,故書を収納するくらをいい,転じて内閣文庫,東洋文庫などのようにまとまった蔵書を意味した。…

【書庫】より

…書物を保存格納しておく倉庫。〈文庫〉ともいい,古くは〈文殿〉〈経蔵〉などとも称した。これに相当するラテン語,英語bibliotheca,ドイツ語Bibliothek,フランス語bibliothèqueなどはいずれもギリシア語bibliothēkēにもとづく。…

【図書館】より

…人類の知的所産である図書をはじめとする記録情報を収集・蓄積し,利用しやすい形に整序あるいは加工して,求めに応じて検索し,利用に供する社会的機関をいう。かつて日本では,〈文庫〉〈書籍館〉の名でも呼ばれたが,近年は情報のデータベースとしての役割も果たすところから〈情報センター〉とも呼ばれる。 〈図書〉という言葉は《易経》繫辞伝に〈河は図を出し,洛は書を出す,聖人これに則る〉とあるように河図洛書(かとらくしよ)を指す。…

【投書】より

…明治30年代前半には,はがき投書が流行した。1枚のはがきに各階層の読者が公憤や私憤をあらわし,《文庫》(1895創刊)に代表される投書雑誌も隆盛であった。しかし投書は新聞の企業化とともに衰退していく。…

※「文庫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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