改訂新版 世界大百科事典 「加害条項」の意味・わかりやすい解説
加害条項 (かがいじょうこう)
clause d'attentat[フランス]
外国の元首やその家族に対する加害行為を政治犯不引渡原則(犯罪人引渡し)の例外とすることを定めた条項。1856年のベルギー犯罪人引渡法に初めて挿入されたのでベルギー条項ともいう。1854年フランス皇帝ナポレオン3世の暗殺を企てたフランス人がベルギーに逃亡し,フランスは両国間の犯罪人引渡条約(1834)に基づいて犯人の引渡しを請求した。ベルギーの裁判所では1833年の犯罪人引渡法の政治犯不引渡規定に該当するか否かが争われ,世論も犯人に好意的であったため,フランスが請求を取り下げて事件は終了した。この事件を契機に,ベルギー犯罪人引渡法が改正され,外国元首およびその家族の身体に対する加害行為(故殺・謀殺・毒殺)は政治犯罪または政治犯罪と関連する行為とみなさないとされた。その後,加害条項は多数の犯罪人引渡条約に挿入され,被請求国は犯人の引渡しに同意を与えている。元首の殺害という最も政治的な行為を普通犯罪とした点と,対象が元首等に限られ政府首長や閣僚等を加害条項に含ませない点などの問題がある。
執筆者:西井 正弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報