内科学 第10版 「動脈塞栓症」の解説
動脈塞栓症(動脈系疾患)
原因
塞栓源は,心房細動に由来する左房内血栓など心原性であることがほとんどである.ほかに粘液腫などの心臓腫瘍や大動脈壁在血栓,感染性心内膜炎やリウマチ性弁膜症などがその原因疾患となる.
臨床症状
四肢動脈の急性動脈閉塞の主要徴候として一般に6Pと称される拍動消失(pulseless),疼痛(pain),蒼白(pallor),知覚異常(paresthesia),運動麻痺(paralysis),冷感(poikilothermia)が特徴であるが,これらは虚血の重症度に応じて現れる.重症例では,治療の時期を逸すると大切断しか治療手段がなくなり,筋硬直が起きて足関節などの可動性が消失すると,救肢困難である.一般にgolden time とされる6〜8時間以内であれば,筋組織などの末梢組織に不可逆的変化は生じにくいと考えられ,初診時の的確な診断が重要である.
一方,脳動脈では広範囲脳梗塞や,出血性梗塞の合併などから予後不良である.腹部動脈・腸間膜動脈の塞栓症では,腹痛,下血,麻痺性腸閉塞などを起こし,緊急腸切除も必要となる.
検査成績
急性動脈閉塞の40〜60%が塞栓症であり,塞栓源はおもに心房細動,心臓弁膜症,感染性心内膜炎に伴う心臓内の血栓などであることから,胸部聴診,心電図,心臓超音波検査,特に経食道心臓超音波検査が有用である.動脈瘤の壁在血栓による塞栓も考慮して画像検査を行う.
治療
急性動脈閉塞治療の目標は,血流の再開と二次血栓の予防による虚血の進展防止である.このため,急性動脈閉塞の診断がついた時点で,血栓の進展を予防するためにヘパリン投与を行い,重症度に応じて治療を行う.重症例では救命目的に大切断を選択する.その他,血栓によってはFogartyカテーテルによる血栓除去が有効である.塞栓後,golden time以内であれば,血栓除去を行うことで塞栓子を除去できれば,予後も良好である.しかし,虚血が重症化しており時間が経過している症例においては,血行再開後に筋腎代謝症候群(myonephropathic metabolic syndrome:MNMS)に陥り,救命困難になることがあるため,第一選択として罹患肢の大切断を考慮しておくべきである.心房細動による塞栓症の場合は,ワルファリンによる術後抗凝固療法は必須である.また塞栓による脳梗塞を起こした場合,生命予後が脅かされることも多い.コレステロール塞栓症(cholesterol embolism,ブルートウ症候群(blue toe syndrome))
末梢動脈に塞栓が飛来して末梢動脈を閉塞するにより,急性末梢動脈循環障害をきたす疾患である(図5-17-5).足趾に生じた微小塞栓が本態で,動脈壁の不安定な粥腫や動脈瘤の壁在血栓が破綻し,コレステリン結晶が,末梢動脈へ飛散することによる.医原性としてカテーテル操作,心臓血管手術などが誘因となる.多くは急性発症の経過と動脈拍動の触知から診断可能であるが,多臓器への塞栓症として腎機能障害,虚血性腸炎などをきたし注意を要する.[的場聖明・松原弘明]
■文献
小室一成編:新・心臓病診療プラクティス 15 血管疾患を診る・治す,文光堂,2010.末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン.Circulation Journal, 73(suppl Ⅲ), 2009.
Norgren L, Hiatt WR, et al: TASC II Working Group. Inter-Society Consensus for the Management of Peripheral Arterial Disease (TASC II). J Vasc Surg, 45 (suppl S): S5-67, 2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報