翻訳|embolus
血栓が流血中に脱落したり,異物が脈管内に流れ込んだりして,血液またはリンパ液により運ばれて,細い血管またはリンパ管に達して,それ以上進むことができなくなって管腔を閉塞する。このように管腔を閉塞したものを塞栓,このような現象を塞栓症embolismという。塞栓の大部分は血栓であるが,そのほか細胞や組織塊,脂肪,色素,寄生虫体および虫卵,細菌塊,ガスまたは空気であることもある。脂肪塞栓症は,骨折や手術のときに,骨髄の脂肪や脂肪組織の脂肪が血管内に入り塞栓となるものである。ガスまたは空気による塞栓症はガス塞栓症といい,外傷や手術のときに静脈内に空気が吸引されることによる場合や,潜水病または潜函病のように,急激な気圧の変化により血中の窒素ガスが急激に遊離して血管内で多数の気泡となり小血管を閉塞しておこる。塞栓が体内で運ばれる経路により動脈性塞栓症,静脈性塞栓症があるが,そのほか特殊なものとして静脈内にできた塞栓が肺を通ることなく,右心房と左心房の間の卵円孔を経て大循環系に入り動脈に塞栓症をおこす場合や,血流のゆっくりしている静脈で急激な血圧の変動により血管内で血液が逆流し,塞栓が静脈の上流に達し,そこを閉塞して塞栓症をおこす場合がある。血栓は静脈内にできることが多いので,静脈の血流に沿って右心房・右心室を経て肺に塞栓症をおこすことが最も多い。塞栓症の影響は,塞栓の種類,大きさ,部位,動脈か静脈かなどによって異なる。たとえば塞栓が腫瘍細胞からなるときにはしばしば転移巣を形成し,細菌塊からなるときには化膿巣の形成など強い炎症性変化がみられる。塞栓が血栓の場合には肉芽組織が生じて,しだいに吸収され,瘢痕(はんこん)化する。ガスおよび空気や脂肪からなる塞栓は吸収されることが多い。
動脈性塞栓症の場合には,塞栓部位の下流は血管の分布状態によっても異なるが,少なくとも一時的には虚血がおこり,終動脈の臓器では完全に血流が止まり急激な壊死をおこし梗塞となる。
→循環障害
執筆者:毛利 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
脈管(血管、リンパ管)の中で、血栓とか、外から流入してきた異物が脈管の細いところに流れ込んで、血液、リンパ液の流れをふさいでしまうことがあり、この流れをふさいでいるものを塞栓とよび、これにより発生する病的状態を塞栓症という。塞栓の種類には、血栓、脂肪、ガス、空気、寄生虫とその虫卵、癌(がん)細胞、細菌などがあり、それぞれ血栓性塞栓症、脂肪塞栓症、ガス塞栓症、空気塞栓症、虫卵塞栓症、細胞または組織塞栓症、細菌塞栓症などとよばれる。ガス塞栓症は、高圧下では血中に溶解していたガスが、減圧時にふたたびガス泡となるためにおこるもので、潜函(せんかん)病(減圧症)のときにみられる。塞栓がおこると、それより末節の血流が絶えて組織が壊死(えし)をおこす。
[伊藤健次郎]
…脳梗塞は次の四つに大きく分けられる。すなわち,動脈硬化であるアテローム硬化を伴う脳血栓症,脳塞栓症,他の原因による脳梗塞,原因不明の脳梗塞である。(1)アテローム硬化を伴う脳血栓症 頸動脈や脳動脈にアテローム硬化をきたし,その部に凝血塊(血栓)を生じるもので,俗に脳血栓ともいわれる。…
※「塞栓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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