日本大百科全書(ニッポニカ) 「化物草子」の意味・わかりやすい解説
化物草子
ばけものぞうし
五つの短い怪異談を集めた室町後期(16世紀)の絵巻。詞(ことば)・絵各七段からなる一巻。物語は、(1)少年に化けた蟻(あり)と蜱(だに)が庭で相撲(すもう)をとる話、(2)杓子(しゃくし)が人の手に化けて「かちぐり」を欲しがる話、(3)柄(え)の折れた銚子(ちょうし)が耳の長い法師に化けて室内をのぞく話、(4)水に落ちた蠅(はえ)を助けると、そばで昼寝していた男が目を覚まし、大海で溺(おぼ)れ死ぬところを助けられたと語る話、(5)かかしが男に化けて女のもとに通い契る話で、ひとり暮らしの男や女の身近に起こった怪異なできごとを中心とした広義の御伽(おとぎ)草子的な内容をもつ。縦21センチメートル(画面縦16.1センチメートル)の小型な絵巻で、15世紀前半ごろから愛好された小絵(こえ)と称する小品絵巻の伝統につながる。巻末に狩野探幽(かのうたんゆう)の「此(この)一軸土佐刑部大夫(とさぎょうぶのたいふ)真筆也」の奥書があり、筆者を土佐光茂(みつしげ)としているが確証はなく、室町末ごろの画所(えどころ)系の絵師の作と思われる。ボストン美術館蔵。
[村重 寧]