杓子(読み)シャクシ

デジタル大辞泉 「杓子」の意味・読み・例文・類語

しゃく‐し【×杓子】

飯を盛ったり汁などをすくったりする道具。頭が丸く中くぼみの皿形で柄がついている。形・材質などから、木じゃくし・玉じゃくしなどという。一般に飯用のものは杓文字しゃもじという。
杓子がた」の略。
飯盛り女。旅人相手の私娼。
「みやげにもならぬ―を旅で買ひ」〈柳多留・四二〉
[類語](1柄杓茶杓しゃもじお玉杓子

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精選版 日本国語大辞典 「杓子」の意味・読み・例文・類語

しゃく‐し【杓子】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 汁や飯などをすくうのに用いる具。頭は、汁用が小皿形、飯用は平板形。古くは木製や貝製のものを用いた。主婦が家族の飯を杓子で盛り分けることから、主婦権を象徴し、また、富籤(とみくじ)など勝負事に勝つまじないの具にもされた。飯匙(いいがい)。しゃもじ。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
    1. [初出の実例]「ヲヤヲヤ、おしゃもじとは杓子(シャクシ)の事でございますよ」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三)
  3. (み)のいらないいが栗。杓子栗(しゃくしぐり)。また、の頭のように、まるくて中のくぼんだ形をいう。
    1. [初出の実例]「いがぐりの中に実のいらぬをしゃくしといへり」(出典:俳諧・類船集(1676)之)
  4. しゃくしがお(杓子顔)」「しゃくしづら(杓子面)」の略。
    1. [初出の実例]「金作 かほ大略なり。但しゃくしなり」(出典:評判記・嶋原集(1655))
  5. しゃくしがた(杓子形)」の略。
  6. ( は飯を盛るのに用いるところから ) 飯盛り女。旅人相手の私娼。
    1. [初出の実例]「本ぬりの酌子(シャクシ)はみせの影で売」(出典:雑俳・川傍柳(1780‐83)二)
  7. しゃくしかけ(杓子掛)」の略。
    1. [初出の実例]「それそれ、阿波座の杓子(シャクシ)か、横堀の鼻の落ちた和郎が似合ひ相応ぢゃ」(出典:歌舞伎・油商人廓話(1803)序幕)
  8. 馬鹿、阿呆(あほう)をいう、江戸時代天保~嘉永(一八三〇‐五四)頃の流行語。
    1. [初出の実例]「ゑらい杓子じゃは、至って新物也。以前の南京じゃなアと同意なるべし」(出典:随筆・皇都午睡(1850)三)
  9. 和船の船尾戸立の別称。近世前期日本海海運の代表的廻船であった北国船における特殊な呼称。上部を水返しという。
    1. [初出の実例]「北国船〈略〉長は向ふしとみ之内端より艫(とも)のしゃくしの端揃内端まて」(出典:田名部海辺諸湊御定目(1781)諸湊地他着船御役付)

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改訂新版 世界大百科事典 「杓子」の意味・わかりやすい解説

杓子 (しゃくし)

汁,飯などをすくい,移すための具。女房詞(にようぼうことば)で〈しゃもじ(杓文字)〉という。〈しゃくし〉〈しゃもじ〉の語は汁を盛る汁しゃくしと,飯を盛る飯しゃくしの両方に用いられているが,両者は用途がちがうので形態も異なっている。汁しゃくしは必ずくぼみを必要とするが,飯しゃくしは平らな木片でもまにあう。飯しゃくしを〈へら〉〈めしべら〉と呼ぶ地域が多いのは,そのためであろう。汁しゃくしの方は〈おたまじゃくし〉〈かいじゃくし〉などと呼ばれ,木製,金属製などのほか,ホタテガイなどの貝殻に柄をつけたものも用いられる。ちなみに,しゃくしの語の初見は室町末期ころと思われるが,日本ではそれまで〈匙〉〈匕〉(いずれも音はヒ)と書き,〈かい〉と読んでいた。このことはしゃくしの原形が貝しゃくし様のものであったことをうかがわせる。《正倉院文書》によると,奈良時代には取分け用のものと個人用のスプーンとの2種が用いられており,後者はのちに食卓から姿を消して薬剤用などの〈さじ(匙)〉になり,取分け用のもののみがのこって,しゃくしになっていく。ただし,〈かい〉が本来は汁用であったためであろう,飯用のものはその後〈飯匙(いいがい)〉と呼ばれていた。現在〈しゃくし〉の語が飯しゃくしとしてより,汁しゃくしとして使われる方が多いといわれるゆえんである。なお,江戸時代には,〈おたまじゃくし〉は〈お多賀じゃくし〉ともいわれた。近江の多賀大社お守りとして授与したもので,《尤草紙(もつとものそうし)》(1629)は〈まがれる物の品々〉の一つに数えている。しゃくしの柄は曲がっているものだったので,〈故に杓子定規の諺(ことわざ)はあるなるべし〉と柳亭種彦は書いている。
執筆者:

しゃくしはひさご(瓠)のなまった言葉で,その原型はひさごを縦割りにしたものとされている。しゃくしの中央のくぼみは,粘りのある軟らかい飯を多く食べるようになるにつれて,小さく平らになっていったが,ここは神霊の宿る所として神聖視された。しゃくしは食物を分配する道具であり,家族の食生活をつかさどる主婦の重要な持ち物として主婦権の象徴ともされていた。とくに大晦日の食物分配は神聖視され,この夜にしゃくしをしゅうとめから嫁に渡して,主婦権譲渡の式を行う所が多かった。東北地方では主婦をヘラトリといい,主婦権譲渡をヘラワタシという。しゃくしは田の神や山の神の採物ともされ,主婦が山の神と称されるのもこのためという。しゃくしはさまざまなまじないにも使われ,家の戸口にさして悪疫や風邪よけとしたり,自在かぎに結びつけて火伏せのまじないにもされた。また遊女が辻でしゃくしを振って遊客を招く呪術(じゆじゆつ)に使ったり,死者の魂をよび戻す魂呼び(たまよび)にもしゃくしが使われた。また神社にしゃくしを奉納して願掛けする風習も広く見られ,宮島の厳島神社はじめ,しゃくしを縁起物にしている神社も少なくない。いずれもしゃくしを神霊の容器とする心意にもとづいた風習と考えられ,しゃくしを新しく買う際も二つひと組で買うものとされている。しゃくしはもとは木椀などとともに漂泊的な山民である木地屋が作り,里の定着農民の穀物などと交換されたものであり,異界からもたらされた呪具として里では神聖視されていたのである。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「杓子」の意味・わかりやすい解説

杓子
しゃくし

汁や飯などをすくうための用具。女房詞(ことば)では「しゃもじ」という。杓子の最初は貝殻の自然のくぼみを利用していたようで、正倉院にこの貝杓子がある。また縦割りのヒョウタンや、木をくりぬいたものも古くから用いられた。杓子は古くはカイとかヘラとよばれていた。ヘラはおもに飯杓子をさしていたと考えられ、飯(いい)ガイとよばれていた記述もある。カイは汁・飯両用のようで、現在も、九州地方ではカイ、東日本ではヘラという呼び名の残っている所もある。杓子は、汁用、飯用ではすくう対象が違うため、当然その形態も異なる。汁杓子は汁をすくうためのくぼみが必要だが、飯杓子は不要である。したがって、初めはくぼみがあった飯杓子も、しだいに平らな木のヘラ状に変わったようだ。ヘラという呼び名もこのあたりから出たとみてよい。一方、汁杓子は貝や木彫り製であったのが、金属製や、さらに加工したほうろう製のものもできた。また形も、玉杓子のほか、穴杓子、網杓子など用途別のものが種々現れた。

 杓子は食物配分の道具として使用された。そのため、その権限を握る主婦権の象徴として古くから大きな意味をもち、たとえば、東北地方では主婦を「へらとり」といい、主婦権の譲渡を「へらわたし」「杓子わたし」「杓子を譲る」などという。また杓子は、各地の名所、とくに、神社で名物として売られているが、杓子は穀物と関係し、福をよぶ呪物(じゅぶつ)と考えられているためである。

[河野友美]

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百科事典マイペディア 「杓子」の意味・わかりやすい解説

杓子【しゃくし】

飯や汁をすくう具。飯杓子を特に〈へら〉ともいう。〈しゃもじ〉は女房詞(ことば)。貝杓子,木杓子,お玉杓子などがある。杓子は食物を配分することから主婦権の象徴とされ,主婦を〈へら取り〉,主婦権譲渡を〈へら渡し〉などという。また杓子は山神祭の採物(とりもの)ともされたため主婦のことを山の神ともいう。厳島神社,滋賀県多賀大社などではお守りとして売る。
→関連項目へら渡し

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「杓子」の意味・わかりやすい解説

杓子
しゃくし

飯または汁などをすくう台所用具。シャモジともいい,古くはカイ,ヘラと呼ばれた。形は丸い頭に柄をつけたもので,一般に飯用は頭が平らであるが,汁用は中くぼみになっている。木,竹,貝製のほか,金属やほうろう製のものもある。食物配分の道具として重要なため,古くから主婦権の象徴,五穀豊穣の呪物とされている。

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食器・調理器具がわかる辞典 「杓子」の解説

しゃくし【杓子】

汁をすくったり、飯を盛ったりするのに用いる道具。汁用はすくう部分が丸い小皿の形で長い柄の付いたもの、飯用は先が丸く平らなへら状のものだが、飯用は普通「しゃもじ」という。⇒しゃもじ

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世界大百科事典(旧版)内の杓子の言及

【スプーン】より

…液体や粉体をすくうボウルの部分に柄のついた食卓用具。日本語の〈さじ〉にあたる。英語spoonの語源は木片のこと。フランス語ではcuillèreといい,巻貝を食べるときの道具に由来する。古くから木,貝,素焼き,石,角,象牙,青銅,銀などでスプーンがつくられ,古代エジプトでは化粧材料の混合や調理用に使われていた。ギリシア・ローマ時代にも調理用や給仕用のものが各種使われたが,当時の貴族の宴会では,寝椅子に横たわり,料理は指でつまむか,汁気の多い料理は,食器から直接口にしたり,パンを浸して食べたので,個人用のスプーンは必要としなかった。…

※「杓子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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