しゃく‐し【杓子】
〘名〙
① 汁や飯などをすくうのに用いる具。頭は、汁用が小皿形、飯用は平板形。古くは木製や貝製のものを用いた。
主婦が家族の飯を杓子で盛り分けることから、
主婦権を
象徴し、また、
富籤(とみくじ)など
勝負事に勝つ
まじないの具にもされた。飯匙
(いいがい)。
しゃもじ。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三「ヲヤヲヤ、おしゃもじとは杓子(シャクシ)の事でございますよ」
② 実
(み)のいらない
いが栗。杓子栗
(しゃくしぐり)。また、①の頭のように、まるくて中のくぼんだ形をいう。
※俳諧・類船集(1676)之「いがぐりの中に実のいらぬをしゃくしといへり」
※評判記・嶋原集(1655)「
金作 かほ大略なり。但しゃくしなり」
⑤ (①は飯を盛るのに用いるところから) 飯盛り女。旅人相手の
私娼。
※雑俳・川傍柳(1780‐83)二「本ぬりの酌子(シャクシ)はみせの影で売」
※歌舞伎・油商人廓話(1803)
序幕「それそれ、
阿波座の杓子
(シャクシ)か、
横堀の鼻の落ちた
和郎が似合ひ相応ぢゃ」
⑦ 馬鹿、
阿呆(あほう)をいう、江戸時代天保~
嘉永(
一八三〇‐五四)頃の流行語。
※
随筆・皇都午睡(1850)三「ゑらい杓子じゃは、至って新物也。以前の南京じゃなアと同意なるべし」
※田名部海辺諸湊御定目(1781)諸湊地他着船御役付「北国船〈略〉長は向ふしとみ之内端より艫(とも)のしゃくしの端揃内端まて」
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デジタル大辞泉
「杓子」の意味・読み・例文・類語
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杓子
しゃくし
汁や飯などをすくうための用具。女房詞(ことば)では「しゃもじ」という。杓子の最初は貝殻の自然のくぼみを利用していたようで、正倉院にこの貝杓子がある。また縦割りのヒョウタンや、木をくりぬいたものも古くから用いられた。杓子は古くはカイとかヘラとよばれていた。ヘラはおもに飯杓子をさしていたと考えられ、飯(いい)ガイとよばれていた記述もある。カイは汁・飯両用のようで、現在も、九州地方ではカイ、東日本ではヘラという呼び名の残っている所もある。杓子は、汁用、飯用ではすくう対象が違うため、当然その形態も異なる。汁杓子は汁をすくうためのくぼみが必要だが、飯杓子は不要である。したがって、初めはくぼみがあった飯杓子も、しだいに平らな木のヘラ状に変わったようだ。ヘラという呼び名もこのあたりから出たとみてよい。一方、汁杓子は貝や木彫り製であったのが、金属製や、さらに加工したほうろう製のものもできた。また形も、玉杓子のほか、穴杓子、網杓子など用途別のものが種々現れた。
杓子は食物配分の道具として使用された。そのため、その権限を握る主婦権の象徴として古くから大きな意味をもち、たとえば、東北地方では主婦を「へらとり」といい、主婦権の譲渡を「へらわたし」「杓子わたし」「杓子を譲る」などという。また杓子は、各地の名所、とくに、神社で名物として売られているが、杓子は穀物と関係し、福をよぶ呪物(じゅぶつ)と考えられているためである。
[河野友美]
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杓子【しゃくし】
飯や汁をすくう具。飯杓子を特に〈へら〉ともいう。〈しゃもじ〉は女房詞(ことば)。貝杓子,木杓子,お玉杓子などがある。杓子は食物を配分することから主婦権の象徴とされ,主婦を〈へら取り〉,主婦権譲渡を〈へら渡し〉などという。また杓子は山神祭の採物(とりもの)ともされたため主婦のことを山の神ともいう。厳島神社,滋賀県多賀大社などではお守りとして売る。
→関連項目へら渡し
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杓子
しゃくし
飯または汁などをすくう台所用具。シャモジともいい,古くはカイ,ヘラと呼ばれた。形は丸い頭に柄をつけたもので,一般に飯用は頭が平らであるが,汁用は中くぼみになっている。木,竹,貝製のほか,金属やほうろう製のものもある。食物配分の道具として重要なため,古くから主婦権の象徴,五穀豊穣の呪物とされている。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
しゃくし【杓子】
汁をすくったり、飯を盛ったりするのに用いる道具。汁用はすくう部分が丸い小皿の形で長い柄の付いたもの、飯用は先が丸く平らなへら状のものだが、飯用は普通「しゃもじ」という。⇒しゃもじ
出典 講談社食器・調理器具がわかる辞典について 情報