銚子(読み)ちょうし

精選版 日本国語大辞典 「銚子」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐し テウ‥【銚子】

[1] 〘名〙
① 酒を入れて杯につぐ長い柄のついた器。注ぎ口の両方にあるのを諸口(もろぐち)、一方にだけあるものを片口(かたくち)という。
※三代実録‐貞観六年(864)正月一四日「最後授銚子、賊即云、和尚若捨銚子、客中無此器、辛苦無極矣」
② 燗をした酒を入れて杯に注ぐための酒器。銅・鉄製で、注ぎ口と提げ弦が付いた蓋付きの鉄瓶形。また、①の代用として使った燗鍋。〔日葡辞書(1603‐04)〕
③ 酒を入れ、燗をするための瓶状の容器。徳利(とくり)
※歌舞伎・三人吉三廓初買(1860)五幕「丁度二銚子(テウシ)半。五合入りんした」
[2] (利根川の河口が銚子に似て口の部分が狭いところから呼ばれた) 千葉県東端の地名。利根川の河口に発達。江戸初期から漁業・しょうゆ醸造業が始まり、利根川水運の港として繁栄。現在もしょうゆの醸造が行なわれ、近海・遠洋漁業の根拠地として知られる。犬吠埼(いぬぼうざき)を含む海岸一帯は水郷筑波国定公園の一部。昭和八年(一九三三)市制。

さし‐なべ【銚子】

〘名〙 弦がついて注口(つぎくち)のある鍋。つるしかけて湯をわかしたり酒を暖めるのに用いるもの。後世の燗鍋(かんなべ)、銚子(ちょうし)の類。さすなべ。
正倉院文書‐供養料雑物進上啓(762頃)「納物〈略〉佐志奈閇一口」
※万葉(8C後)一六・三八二四「刺名倍(さしなベ)に湯わかせ子どもいちひつの檜橋より来む狐に浴(あ)むさむ」

さす‐なべ【銚子】

〘名〙 =さしなべ(銚子)新撰字鏡(898‐901頃)〕
菅江真澄遊覧記(1784‐1809)迦須牟巨麻賀多「(サスナベ)のいといと大なるをもてつぎめぐれば、ゑひにゑひて」

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デジタル大辞泉 「銚子」の意味・読み・例文・類語

ちょう‐し〔テウ‐〕【×銚子】

酒を入れて杯につぐ、長い柄のついた器。両方につぎ口のある諸口もろくちと、片方だけの片口とがある。神道の結婚式などで使う。
酒を入れてかんをするための瓶状の容器。徳利。「お銚子をつける」
[類語]徳利

さし‐なべ【銚子】

注ぎ口のある鍋。さすなべ。
「―に湯沸かせ子ども櫟津いちひつ檜橋ひばしより来む狐に浴むさむ」〈・三八二四〉

ちょうし【銚子】[地名]

千葉県北東端の市。利根川河口に位置し、太平洋に面する。醤油醸造・漁業が盛ん。人口7.0万(2010)。

さす‐なべ【銚子】

さしなべ」に同じ。

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日本歴史地名大系 「銚子」の解説

銚子
ちようし

江戸時代以来、海上うなかみ郡の利根川河口部の一帯をいう広域通称名。飯沼いいぬま村・荒野こうや村などの町並景観をもった地域の総称でもあり、また銚子領・銚子湊などとしてみえ、当時からも公的な行政単位ではなく通称であったと考えられる。古くは鳥子と記されていたが、松平伊昌の時代に河口部の上潮・干潮の出入りが銚子の出口に似ているとして銚子の表記を当てたという(「先代集」田中家文書)。正保日本図(大阪府立図書館蔵)に常陸府中(現茨城県石岡市)の近在、または土浦側の霞ヶ浦湖面に「銚子口廿里」「是ヨリ銚子口廿一里廿四丁」と記されており、注記に常州銚子湊とあるのは当時の主航路が常陸側であったためか。延宝六年(一六七八)の境論裁許絵図裏書(網戸区有文書)に銚子海道とみえ、匝瑳そうさ郡方面と結ぶ交通路があった。元禄四年(一六九一)の銚子外浦内浦と題する記録(田中家文書)および猿田さるた神社蔵の宝永五年(一七〇八)の石灯籠竿石銘にみえる銚子外浦など銚子の呼称が定着し、また内浦・外浦の区分があったことが知られる。銚子の範囲は「利根川図志」では南は三崎みさき小浜おばま両村を限り、西は松岸まつぎし垣根かきね芝崎しばさき(柴崎)三村を限るとしており、また銚子の松岸ともみえ(小林一茶「七番日記」)、いわゆる銚子半島の大半部を占めるが、上野高崎藩領となった銚子領一七村の分布ではさらに西方に広がる一帯となる。宝永六年銚子五千石などが高崎藩領として加増され(間部家文書)、享保二年(一七一七)幕府領となるが、同年中に再び海上郡一七村・高五千六一九石余が同藩領となり、銚子領分として把握され、漁冥加・酒運上・造醤油屋運上・質屋運上・灰屋運上・紺屋運上・青物問屋運上、干鰯場運上・塩浜年貢・縄船銀・猪牙船銀・鱈船銭、旅籠屋冥加・気仙問屋冥加などの諸負担が課されている(文政一〇年「銚子領村々書上帳」宇野沢家文書)。天明四年(一七八四)高嵩谷筆の銚子名所漫遊図(銚子青少年文化会館蔵)に当時の景観が描かれる。文化六年(一八〇九)当時の銚子の町並の中心となる飯沼・新生あらおい・荒野・今宮いまみや四村の家数は二千六五六軒で、人数は一万二千五一九人に及んだ(宇野沢家文書)。「下総国旧事考」には戸数約五千、漁戸が多いとある。「利根川図志」でも人家五千で、犬坊いぬぼう埼の別称があるという。

〔銚子湊〕

東廻海運の湊であるとともに利根川水運の河岸で、本州第一の殷富の地とされる(下総国旧事考)

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改訂新版 世界大百科事典 「銚子」の意味・わかりやすい解説

銚子[市] (ちょうし)

千葉県北東端の市。銚子半島に市域が広がり,市街地は利根川河口に臨む。1933年市制。人口7万0210(2010)。近世初期に飯沼・外川地区に紀州の漁民が進出してイワシ漁業をおこし東廻海運の確立後は海洋航行の千石船と利根川をさかのぼる高瀬舟との積替港,また地元のしょうゆ,水産物,干鰯(ほしか)・〆粕(しめかす)などの発送地としてにぎわった。その後,東廻海運の江戸直行や明治末期の総武鉄道(現,JR総武本線),成田鉄道(現,JR成田線)の開通で河港は衰えた。近世のイワシ漁は《銚子大漁節》を生むほど盛んであり,商品農業の肥料としての干鰯・〆粕は遠くは関西まで送られた。漁港は飯沼に造られたが,たびたび拡大され,現在は太平洋岸屈指の大漁港となり,全国からサンマ船,サバ船が集まり,大規模な魚市場,水産加工場,漁船機械・漁網などの工場もできている。利根川対岸の茨城県波崎(はさき)港は副港である。しょうゆの醸造業者も多く,全国で野田市に次ぐ生産量を誇っている。1962年銚子大橋が波崎との間に架橋され,商圏は茨城県南部まで広がった。海岸一帯は水郷筑波国定公園に属する景勝地で,犬吠埼屛風ヶ浦(びようぶがうら)がある。縄文後・晩期の余山(よやま)貝塚,名刹常灯寺,円福寺もある。銚子電鉄線が外川まで通じる。
執筆者:

はじめ銚子という町村名はなく,河口付近一帯の呼称として近世初期ごろから呼ばれだした。その範囲は漠然としているが,中心は利根川付近の飯沼,新生,荒野,今宮の4村。1609年(慶長14)江戸幕府は東北諸藩にこの港の築港の御手伝普請を命じた。このころから海運の寄航地となり,その後利根川経由で江戸への内陸水運が開かれると,東廻海運と利根川水運を結ぶ積替港として繁栄した。また寛永(1624-44)ごろから関西漁民がイワシ漁場に進出し,特に紀州漁民は来住して干鰯生産に従事する者が多く,紀州広村崎山次郎右衛門の外川港開発などもあり,干鰯の生産・集荷地としても栄えた。近世初期に関西から伝えられたしょうゆ醸造業は,田中玄蕃家,浜口儀兵衛家などを中心に独自の発展をみ,製品・原料輸送に利根川水運を利用して江戸市場に進出し,関東有数のしょうゆ生産地となった。1889年本銚子・銚子両町ができた。
執筆者:

銚子 (ちょうし)

酒を入れて杯につぐための器。注口(つぎくち)が両側にあるのを両口(もろくち),片側にあるのを片口といい,いずれも長柄をつけてあった。酒をつぐ器の代表的なものだったため,別系統の徳利が普及するにともない,徳利をもこの名で呼ぶことが多くなった。〈銚〉はもともと〈鍋〉の意で,《和名抄》は銚子を〈さしなべ〉〈さすなべ〉と読んでいる。〈さしなべ〉は,注口のある鍋に弦(つる)をつけたもので,湯をわかしたり酒をあたためるのに用いた。これから長柄をつけたものが分化したと思われるが,長柄の銚子が成立すると,弦をつけた〈さしなべ〉を提子(ひさげ)と呼び,江戸時代になると提子からの変化と見られる燗鍋(かんなべ)が出現する。この燗鍋で明かなように,〈さしなべ〉-提子の系統は,直接火にかけて酒をあたためるのが主要な用途であったのに対し,銚子はおもに冷酒用であり,火にかけて使うものではなかった。公式の儀礼的な饗宴には冷酒が用いられつづけたため,銚子が式正の具として認識されたのである。また,両口の銚子は略儀のもので,片口のものが正式だとされた。両口の右の口は切腹する人に酒を飲ませるもので,通常は紙で包んでおくとする説があったが,伊勢貞丈はこれを否定し,両口の銚子は大酒盛のときなど左右いずれの人へもつぐためのものだとしている。また,紙を折って蝶の形にした蝶花形(ちようはながた)を銚子につけるならわしは,いまでも屠蘇(とそ)を入れる提子などになごりをとどめている。
徳利
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「銚子」の意味・わかりやすい解説

銚子
ちょうし

酒器の一つで、酒を入れて杯(さかずき)に注(つ)ぐための器。平安時代に湯を沸かしたり、酒を温める酒器としても用いられた「さしなべ」の変化したもので、長い柄(え)がついている。銚子には、注ぎ口が一つの片口(かたくち)と、二つの両口(もろくち)がある。古くは、正式な場では片口を、略式には両口を利用していた。両口の由来については、酒宴の場で大ぜいの客が入り乱れて酒を飲み交わすときに、左右のどの客にも酒が注げるように、両側に口をつけたともいわれているが、真偽のほどはわからない。

 銚子の一種に、提げ手として弦(つる)をつけた提子(ひさげ)がある。これは、鉄瓶のような形をしたもので、江戸時代にできた燗鍋(かんなべ)は、提子の変化したものとみられている。銚子は、室町後期に現れた徳利が、酒器として常用されるようになると、正式の酒宴でのみ使用されるようになり、近世には、婚礼や、その他の儀式用にのみ使われるものとなった。なお現在、徳利を「ちょうし」とよぶことがあるのは、かつて、銚子が酒器の代名詞となるほど普及していたためと考えられる。

[河野友美]

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百科事典マイペディア 「銚子」の意味・わかりやすい解説

銚子【ちょうし】

酒を入れ杯に注ぐのに用いる器。柄をつけた長柄銚子,さげ手のある提子(ひさげ)があり,注ぎ口が両方にある両口と一方のみの片口がある。多くは金属製であるが,陶器,漆器もある。平安時代から使用され,のちおもに儀式用となり,神前結婚式,屠蘇(とそ)器などに使用。現在では燗(かん)徳利も銚子と呼ぶようになっている。
→関連項目徳利

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食器・調理器具がわかる辞典 「銚子」の解説

ちょうし【銚子】

➀徳利(とっくり)。⇒徳利
➁酒を杯に注ぐのに用いる長い柄(え)の付いた容器。注ぎ口は両口のものと片口のものがある。材質は木、錫(すず)、銀などがある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「銚子」の解説

銚子
ちょうし

千葉県北東端,利根川河口にある都市。江戸時代以来の醬油産地
九十九里浜を近くに控えて江戸初期から鰯 (いわし) 漁業も盛ん。東廻り航路の中継地としても知られ,利根川水運の開発とともに,東北—銚子—関宿—江戸川—新川—江戸のコースも出現した。1933年市制を施行。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「銚子」の意味・わかりやすい解説

銚子
ちょうし

徳利」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の銚子の言及

【酒器】より


[日本の酒器]
 酒を飲むために用いられる容器の総称。口に運んで飲むためのやグラス,それらに酒を注ぐための銚子(ちようし)や徳利(とくり∥とつくり)が主要なものであるが,杯を置く杯台,杯を洗うための杯洗(はいせん∥さかずきあらい),酒を貯蔵または運搬するために用いられる甕(かめ)や樽をも含む。ここでは酒を注ぐ器を中心に記述するが,日本でも古く土器のほかに酒器として用いられたものに,ヒョウタンやミツナガシワ(カクレミノあるいはオオタニワタリとされる)のような植物の実や葉,あるいは貝殻のような自然物があった。…

【銚子】より

…酒をつぐ器の代表的なものだったため,別系統の徳利が普及するにともない,徳利をもこの名で呼ぶことが多くなった。〈銚〉はもともと〈鍋〉の意で,《和名抄》は銚子を〈さしなべ〉〈さすなべ〉と読んでいる。〈さしなべ〉は,注口のある鍋に弦(つる)をつけたもので,湯をわかしたり酒をあたためるのに用いた。…

【銚子】より

…酒をつぐ器の代表的なものだったため,別系統の徳利が普及するにともない,徳利をもこの名で呼ぶことが多くなった。〈銚〉はもともと〈鍋〉の意で,《和名抄》は銚子を〈さしなべ〉〈さすなべ〉と読んでいる。〈さしなべ〉は,注口のある鍋に弦(つる)をつけたもので,湯をわかしたり酒をあたためるのに用いた。…

【酒器】より


[日本の酒器]
 酒を飲むために用いられる容器の総称。口に運んで飲むためのやグラス,それらに酒を注ぐための銚子(ちようし)や徳利(とくり∥とつくり)が主要なものであるが,杯を置く杯台,杯を洗うための杯洗(はいせん∥さかずきあらい),酒を貯蔵または運搬するために用いられる甕(かめ)や樽をも含む。ここでは酒を注ぐ器を中心に記述するが,日本でも古く土器のほかに酒器として用いられたものに,ヒョウタンやミツナガシワ(カクレミノあるいはオオタニワタリとされる)のような植物の実や葉,あるいは貝殻のような自然物があった。…

※「銚子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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