改訂新版 世界大百科事典 「化猫映画」の意味・わかりやすい解説
化猫映画 (ばけねこえいが)
日本固有の怪談映画の一種で,〈狸もの〉〈狐もの〉などと同様に古くから〈ゲテモノ〉としてつくられてきたが(日本映画史をつづった本には〈低俗観客層に愛好された〉などと記されている),昭和10年代の初めに日本映画きっての〈妖婦女優〉として知られた鈴木澄子(1904-85)がこの種の怪談映画のヒロインを次々に演じて(《佐賀怪猫伝》《有馬猫》(ともに1937),《怪猫五十三次》《怪談謎の三味線》(ともに1938),《山吹猫》(1940),等々),〈化猫女優〉の異名を取って以来,怪談映画のなかでも特殊なジャンルとして日本映画史の底流の一部を形成することになった。すなわち,ゲテモノ,低俗娯楽映画といわれながらも確実な興行価値をもつジャンルとして量産され,とくに戦前の新興キネマで鈴木澄子の〈化猫映画〉をヒットさせたプロデューサーの永田雅一は,戦後も大映(1947年より永田が社長に就任)で,戦前の〈お嬢さんスター〉で売れなくなっていた入江たか子を〈化猫女優〉に仕立てて成功した。これによって猫を演ずることはスター女優の末路を意味するイメージにすらなった。なお,アメリカのB級怪奇映画の系譜にも,《キャット・ピープル》(1942。ジャック・ターナー監督,シモーヌ・シモン主演)という〈猫族の女〉をヒロインにした異色作品があり,1981年にはそのリメーク(ポール・シュレーダー監督,ナスターシャ・キンスキー主演)もつくられた。
→怪奇映画
執筆者:広岡 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報