改訂新版 世界大百科事典 「医学地理学」の意味・わかりやすい解説
医学地理学 (いがくちりがく)
medical geography
主として集団的な形をとってあらわれる疾病,死亡現象を地域との関連において把握する学問。しかし学問の形成過程においては必ずしも明確な性格を示したわけではなく,疾病(しつぺい)地理学,地理医学あるいは地理病理学とも言われてきた。また,幾多の医的現象を広く地理学的にとらえようとする立場から,近年では健康地理学geography of healthという名称も使われてきている。臨床医学のように,それぞれの疾病の病因や症状という純医学的なものの追究が目的ではなく,これらに作用を及ぼす要因としての地理的諸条件を明らかにし,それらと疾病現象との間の諸関係を総合的に把握することに重点がおかれる。それゆえ地理的諸条件のなかには自然的,生物的なものから社会的,経済的なもの,さらには技術的なものまで含まれるので,研究の立場としては自然科学的,人文科学的の両者の立場が必要である。このように把握される集団的疾病現象は,各時代の地域社会の姿を強く反映するものと解釈されることになろう。諸外国においては近年著しい発展をみせ,同時にその研究内容は以下のように多様化した。(1)疾病死亡の地図化。(2)疾病の生物生態学的研究。(3)慢性疾患と環境との関連についての研究。(4)疾病の室内拡散の研究。(5)地域医療の研究。
執筆者:籾山 政子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報