内科学 第10版 「十二指腸悪性腫瘍」の解説
十二指腸悪性腫瘍(胃・十二指腸疾患)
十二指腸の悪性腫瘍には十二指腸原発の腺癌,GIST,カルチノイドのほかに,十二指腸乳頭癌もあるが,これは胆道に由来する腫瘍とされており,8-9-5)(Vater乳頭部腫瘍)でとりあげる.
分類
十二指腸癌はその肉眼形態から①ポリポイド,②flat-elevated,③ulcerative-invasive(図8-4-40)(Araiら,1999)に分けられており,①,②の多くは早期癌で③の多くは進行癌である.
病理
組織学的には分化型の腺癌が多いが,未分化癌も認められる.十二指腸癌のなかには,①絨毛腺腫などのような悪性化のポテンシャルをもった腺腫の一部が癌化するもの,②de novo型発生,③FAP(家族性腺腫様ポリポーシス)やGardner症候群の腺腫から癌化するもの,などがあるとされているが,その多くは①,②と考えられている.
疫学
十二指腸癌は消化管原発癌の0.3%を占めるにすぎないまれな疾患である.また,小腸に発生する癌の30~50%は十二指腸癌である.その多くは乳頭周囲に発生することから,胆汁や膵液などに直接さらされる特殊な状況が,発癌に関与していることが推測されている.
臨床症状
十二指腸癌に特異的な症状はない.腹痛や体重減少,貧血など一般的な症状が認められる.また,腫瘍が大きくなれば当然であるが,十二指腸の閉塞症状が認められるようになる.浸潤が胆管に及べば,閉塞性黄疸を呈することもある.
診断
内視鏡検査あるいはX線検査で,診断は容易であるが,通常の上部内視鏡検査では乳頭下部より肛門側は十分に観察しない場合もあり,見落とされることがある.病期の診断には,X線CTによる漿膜浸潤,リンパ節転移や肝転移の検索が必須である.また,比較的早期の十二指腸癌に対しては超音波内視鏡検査が,その深達度診断に役立つ.進行癌の場合には膵など周囲臓器の癌が十二指腸に浸潤している可能性もあるので,鑑別が必要である.
治療
十二指腸癌は高率に膵頭部周囲リンパ節に転移したり,膵に浸潤することから,膵頭十二指腸切除が標準的治療である(斎浦ら,2004).特に最近は技術的な改善も著しく,手術死亡や合併症が減少し,根治切除可能な症例では比較的良好(60%以上)な5年生存率が報告されている.ただし,その部位が十二指腸水平脚や上行部に存在し,リンパ節転移や膵への浸潤がない症例では,十二指腸部分切除でも根治可能である.早期十二指腸癌,特にm癌に対してはリンパ節転移の頻度も低いことから,内視鏡的切除(EMR,ESD)が報告されている.技術的に胃や大腸に比較して難しいことと,十二指腸壁は薄いため,穿孔や後腹膜への穿通など重篤な合併症も認められるので,標準的な治療とはいえない.抗癌薬治療は症例数が少ないため,明確なエビデンスはないが,大腸癌あるいは胃癌に準じた薬剤が用いられる.[山口俊晴・藤崎順子・齋浦明夫]
■
文献
Arai T, Murata T, et al:Primary adenocarcinoma of the duodenum in the elderly:clinicopathological and immunohistochemical study of 17 cases. Phthol Int, 49: 23-29, 1999.
飯田通久,上野富雄,他:十二指腸悪性腫瘍治療の実際,消化器外科,32: 787-792, 2009.
斎浦明夫,山本順司,他:十二指腸癌,癌と化学療法,31: 327-330, 2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報