X線検査(読み)エックスせんけんさ(英語表記)X-ray examination

改訂新版 世界大百科事典 「X線検査」の意味・わかりやすい解説

X線検査 (エックスせんけんさ)
X-ray examination

レントゲン検査ともいう。工業用および医療用の二つの利用法があり,前者は非破壊検査の一つであるX線探傷に代表される。ここでは後者の医療用X線検査について述べる。

 X線は1895年11月W.C.レントゲンによって発見され,その1ヵ月余り後には早くも人体の手の骨の撮影が行われている。X線検査は主として,X線の人体を透過する作用,フィルムを感光させる写真作用,蛍光物質にあたると蛍光を発する蛍光作用,種々の物質との電離作用などを利用して行われ,これによって人体を損傷することなく,その内部構造およびこれらに生ずる病変を的確に判断することができる。この利益は放射線被曝(ひばく)という不利益(放射線障害)を十分に上回るものと考えられ,医療用X線検査は現代医学の不可欠な要素となっている。しかし検査にあたっては,最も少ないX線量で最大の成果が得られるようにするため,放射線を取り扱う医師,診療放射線技師,機器開発者等が十分に留意するべく厳格な法的規制が定められている。X線検査法には,蛍光板を利用して像の動きを連続的に観察する〈X線透視法X-ray fluoroscopy〉と,X線フィルムによって像を撮影する〈X線撮影法roentgenography〉があり,後者は単純撮影法,造影撮影法,特殊撮影法に大別される。

人体を構成する物質の種類,密度,厚さ等により,X線の吸収率は異なる。この性質を利用して人体内部の構造をX線フィルム上に濃度の差として表す方法であり,被検者に対する特別な処置,造影剤等を必要としない。通常のX線検査の大部分はこの単純撮影法であり,胸部,腹部,骨部と幅広く用いられている。実際の撮影では,検査部位の立体的構造を判断しやすくするために,互いに直角な2方向からのX線撮影を行うことが多い。このため,人体の各部位に基準となるべき基準点,基準線が決められており,これらを基にした撮影法に従って,診断目的に応じたX線写真が撮影される。

検査目的の臓器等(胃,胆囊,腎臓,血管など)において,周囲組織とのX線吸収差が少ない場合,X線吸収率の異なる物質〈造影剤〉を使用しX線吸収差を高める方法である。この造影剤は,X線をよく吸収する陽性造影剤(バリウム,ヨード等)と逆にX線の透過性のよい陰性造影剤(空気,酸素等)とがあり,検査目的に応じて使用される。この検査法においては,造影剤の位置や動きなどを観察するためにX線テレビ透視が併用されることが多い。食道,胃のX線検査においては,これらを組み合わせたX線テレビ装置を使用して,バリウム造影剤を服用後,透視,撮影が繰り返される。この装置は,X線透過像をテレビ撮像管でとらえて,モニターテレビ上に表すようにしたものである。この装置により,検者,被検者の放射線被曝線量が大幅に軽減されるようになった。
造影剤

通常のX線撮影法と違った撮影条件や特別の装置を使用してX線検査をする方法をいう。次のような種類がある。(1)軟線撮影法 X線は低電圧で発生させたものほど,波長が長くなり,組織での吸収差が大きくなる。この性質を利用して,乳房,甲状腺,表皮などを撮影する。通常4万V以下の電圧が使用される。被検者の被曝線量も比較的多いが,コントラストも大きく診断能の高い画像が得られる。(2)高圧撮影法 前述の軟線撮影とは反対に,高電圧10万V以上を用いてフィルム上での診断域を増す方法である。これは,X線が高電圧によって発生するものほど,波長が短くなり,組織間のX線吸収係数の差も小さくなるという性質を利用している。とくに胸部撮影に多用され,読影の妨げとなる肋骨鎖骨等を淡く表現し,内部の肺組織を描出しやすくする。近年では特殊撮影に含めないこともある。(3)断層撮影法 X線像は透過像であるため,種々の陰影が重なって1枚の画像を構成している。この中から不必要な陰影をぼかして消去し,目的とする断面のみを描出する方法である。(4)コンピューター断層撮影 CT検査computed tomography,CTスキャンとも呼ばれている。1972年からCT装置が実用化され,X線検査に新分野を築いた。これは,X線を人体の周囲から照射し,その反対位置において透過X線の強度を鋭敏な検出器で検出後,コンピューター処理を行い,人体の輪切像(断層像)としてテレビモニター上に描出するものである。診断能をより高めるために静脈からの造影剤注入を併用することがある。この装置の出現により,従来困難であった頭蓋内の病変や,軀幹部,実質臓器の多くの疾患が外部から診断できるようになった。(5)立体撮影 一般の立体写真と同じ原理に基づき,患者とフィルムの位置を変えずにX線管のみを移動させ,2回別々のフィルムに連続して撮影し,立体鏡,裸眼視などにより病変の立体像を得る。(6)拡大撮影法 X線焦点の小さいX線管を用い,患者とフィルムの間を離し,幾何学的拡大を得る方法や,光学的手法により拡大像を得る方法がある。骨や血管などの微細構造の変化がよくわかる。(7)X線映画撮影法 心臓などの速い動きのある被写体の動態を観察し,分析するために用いられる。虚血性心疾患における冠状動脈の閉塞部位の診断などには不可欠の方法である。(8)電子X線写真法 通常のX線撮影にはX線フィルムが用いられているが,半導体(セレンなど)のX線による放電現象を利用し,未放電の部分に色素粉末を吸着させ,紙に転写後,画像を得る方法である。この方式は,すべての行程が乾式で処理されることから,ゼロラジオグラフィーzeroradiographyと呼ばれている。辺縁効果があり寛容度も広いため,骨陰影,軟部陰影の描出に優れている。(9)ディジタルラジオグラフィー 従来のフィルム法によるアナログ量的記録と異なり,透過X線情報量をディジタル化して画像を得る。このことは画像処理を容易にし,診断目的に応じた画像が得られ,診断情報の管理,保存,伝達などにも利用できる可能性が注目されている。(10)間接撮影法 被写体を透過してきたX線を蛍光面上に写し,その像を光学的に縮小撮影する。集団検診等において多く用いられてきたが,最近は日常の透視撮影,連続撮影にも利用されてきている。以上のほかにも多くの検査法があるが省略する。
間接撮影 →断層撮影
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百科事典マイペディア 「X線検査」の意味・わかりやすい解説

X線検査【エックスせんけんさ】

X線が人体を透過する際,各臓器および異物によって吸収率が異なることを利用して,人体の内部構造や変化を知り,病気の診断をする検査法。なお検査目的臓器が周囲と吸収率の差がないか,またきわめて少ないときに,X線造影剤や空気を注入して対照度の明瞭な像を得るのをX線造影法という。直接撮影は,X線フィルムの前に蛍光物質を塗った増感紙を置き,人体透過X線をこれに吸収させ,蛍光の強弱によってフィルムを感光させてX線写真を得るもので,この際,被写体とフィルムの距離を離すと実物より大きなX線像が得られる(拡大撮影)。間接撮影は蛍光板上に生じたX線像をカメラで撮影するもので,集団検診に利用される。X線透視は,蛍光板上の映像を直接目で見て診断する方法で,動態観察に便利であるが,現在では蛍光増倍管などの発達によって,連続撮影,X線映画,X線テレビも可能となり,造影法を併用して,心臓血管系,消化器などの診断に大きな成果をあげている。その他普通撮影より高圧のX線管を用い,肺癌,肺結核などの診断に利用される高圧撮影法,病巣の任意の断面のみを撮影する断層撮影法など各種の方法がある。
→関連項目X線X線二重造影法診断塵肺スクリーニング検査大腸癌放射線科

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とっさの日本語便利帳 「X線検査」の解説

エックス線検査(X線検査)

エックス線を照射し、生体の密度の違いによってエックス線の透過の違いを画像で描出する方法。全身のあらゆる部位に応用されている。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

世界大百科事典(旧版)内のX線検査の言及

【間接撮影】より

X線検査において,X線透視と同じ原理で被写体を透過したX線を蛍光板やイメージインテンシファイア(IIと略称)で受けて蛍光像(可視像)とし,これをレンズあるいはミラーを介して間接的にカメラに縮小撮影する方法。これに対して,透過X線によってフィルム上に直接,像をつくる方法を直接撮影という。…

【断層撮影】より

X線検査における一手法。普通のX線撮影では種々の構造が重積して1枚の画像を形成するが,断層撮影は,目的とする身体のある深さの断面のみを明りょうなX線像として写し出し,他の部分をぼけ像とするもので,1921年フランスのボカジュA.E.M.Bocageが考案した。…

※「X線検査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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