日本大百科全書(ニッポニカ) 「口中秘伝」の意味・わかりやすい解説
口中秘伝
こうちゅうひでん
口腔(こうくう)および歯科に関する治療法を記した医書。平安時代の名医である丹波康頼(たんばのやすより)の子孫、丹波冬康は口歯科に優れ、その孫の兼康、甥(おい)の親康の家系はそれぞれの名を氏として、代々、口科をもって知られた。『口中秘伝』はこの2家の口中療治に関する秘伝書である。兼康口中科の治方を伝える書として『兼康氏秘伝法』『兼康家口中秘伝之書』『兼康歯書』『兼康口中療法秘要』などがあり、親康口中科には『典薬丹三位(てんやくたんさんみ)親康秘伝』『口中治療方』などがあって、テキストは一定しないが、その内容は大同小異といわれ、室町・安土(あづち)桃山時代の撰述(せんじゅつ)になるものである。病症の記載は当時、日本に輸入され広まった金元(きんげん)の李朱(りしゅ)医学に典拠し、それに独自の臨床経験を加えたものと考えられる。
[小曽戸洋]