日本大百科全書(ニッポニカ) 「合成通貨」の意味・わかりやすい解説
合成通貨
ごうせいつうか
synthetic currency
複数の通貨を組み合わせてつくった通貨。グローバル経済の進展や外国為替(かわせ)相場の変動に伴い、基軸通貨といえども価値が安定していないため、一定の経済圏の通貨価値を安定させる目的で創出されるケースが多い。1999年に創出されたヨーロッパ共通通貨ユーロは、ドイツ・マルク、フランス・フラン、イタリア・リラなどヨーロッパに存在した既存通貨の価値を勘案して導入された合成通貨である。国際通貨基金(IMF)が1969年にアメリカ・ドルや金を補完する目的で創設したSDR(特別引出権)も合成通貨であり、2015年9月時点でアメリカ・ドル、ユーロ、円、イギリス・ポンドの世界主要4通貨によって価値を決定している。このほか外国為替相場の変動を人為的に一定の目標範囲内に抑える管理変動相場制度を採用している国々では、アメリカ・ドルやユーロなどの主要通貨を組み合わせた通貨バスケットを基準に相場変動を抑えており、これも一種の合成通貨とみることができる。
なお狭義には、外国為替取引において、円とユーロ、円とオーストラリア・ドル、円とスイス・フラン、ユーロとイギリス・ポンドなど、アメリカ・ドルを含まない2通貨間の取引のことを合成通貨(取引)とよぶことがある。一般に、銀行間市場での外国為替間取引では、8割以上がアメリカ・ドルとの取引であり、仮に円とスイス・フランを取引する場合には、円を売ってアメリカ・ドルを調達すると同時に、アメリカ・ドルを売ってスイス・フランを購入する取引を実行する。いわば2組の外国為替取引を合成して取引を成立させるため、合成通貨(取引)と通称されており、クロス通貨(取引)といわれることもある。これに対しアメリカ・ドルと円、アメリカ・ドルとユーロ、アメリカ・ドルとイギリス・ポンドなど、アメリカ・ドルと他通貨との取引は銀行間市場で一般的に成立しており、こうしたアメリカ・ドルとの通貨取引をストレート通貨(取引)とよぶ。
[矢野 武 2015年12月14日]