一般には一般的交換手段・支払手段、価値の尺度、価値の貯蔵手段という三つの機能を果たすものを通貨という。定期性預金も準通貨として広く解釈されるが、狭義にはとくに支払手段(決済手段)として機能するものを通貨とよんでいる。実際、今日における代表的通貨は現金通貨(銀行券および補助通貨)であるが、このほか銀行などの当座預金・普通預金などの要求払預金も預金通貨とよばれて、通貨として重要な役割を演じている。当座預金は小切手の振出しによって払い戻すことのできる預金であるが、小切手が流通し、手形交換所を通じて多数銀行間の預金の移動によって決済を行うことができることから、現金通貨に比較して重視されるようになった(いわゆるキャッシュレス・ソサイエティー)。ついで、公共料金の口座間の自動振替え、給与の自動振込み、クレジットカードの使用による口座間の預金の移動による決済制度などが拡充されるとともに、小切手を伴わない預金通貨の決済機能がいっそう重要視されるに至った(チェックレス・ソサイエティー)。こうした傾向は、今後、金融の分野でのエレクトロニクス化の進展に伴い、さらに進むものと考えられる。
現金通貨の大宗をなす銀行券が中央銀行によって供給されるのに対して、要求払預金は預金銀行(市中銀行)によって供給される。中央銀行と預金銀行は、前者の後者への貸出や後者の前者への準備預金の預入れなどによって結び付いているから、通貨の構造は、それを発行する銀行の体系と深く関連している。預金銀行は貸出機能と結び付けて要求払預金の創造を行うことができる(信用創造)。
預金銀行は、要求払預金のほかに定期性預金をも受け入れる。定期性預金は一定期間預入れしておいて利子収益を得ることを目的とする預金であるが、満期まで保有することによって得られる利益を放棄するのであれば、いつでもこれを解約して流動化できることから、通貨に準ずるもの、すなわち準通貨と定義することができる。たとえば、金融引締め期においては、定期性預金から要求払預金への大規模なシフトが生じたりするからである。
以上述べたように、現金通貨と預金通貨をあわせたものを「狭義の通貨」、これに準通貨を加えたものを「広義の通貨」とよぶことができる。しかし、最近の金融のエレクトロニクス化の進展は、定期預金を含めた収益性の金融資産に同時に決済性をもたすことが可能となっている。したがって、通貨の概念が急速に広がりつつあり、通貨を定義することがむずかしくなっている。
2008年(平成20)6月、日本銀行は金融環境の変化による通貨保有主体や金融商品の範囲の見直しを行い、それまでのマネーサプライ統計からマネーストック統計に名称を変更した。マネーストック統計では、M1、M2、M3、広義流動性の四つの指標を作成・公表している。M1は、もっとも容易な決済手段として用いることができる現金通貨と預金通貨により構成される。M2ならびにM3は、M1に定期性預金(準通貨)と譲渡性預金(CD)をあわせたものである。なお、M2とM3の違いは、M2が預金の預入れ先を国内銀行(ゆうちょ銀行を除いた国内銀行、外国銀行在日支店、信用金庫、信金中央金庫、農林中央金庫、商工組合中央金庫)などに限定されているのに対し、M3は全預金取扱機関(前記の国内銀行に、ゆうちょ銀行、信用組合、全国信用協同組合連合会、労働金庫、労働金庫連合会、農業協同組合、信用農業協同組合連合会、漁業協同組合、信用漁業協同組合連合会を含む)を対象としているところにある。
最後の広義流動性は、M3になんらかの流動性を有すると考えられる金銭の信託、投資信託、銀行発行の普通社債、金融債、金融機関発行のコマーシャルペーパー(CP)、国債・政府短期証券、外債を加えた指標である。広義流動性は相当広範囲の金融商品を含むため、金融商品間の振替え(たとえば、投資信託を解除して預金に振り替えるなど)が生じた場合であっても、比較的安定的に推移するといった特色がある。
通貨の統計にはこのほかにマネタリー・サーベイがある。この統計は、どのような要因によって通貨当局および預金通貨銀行が通貨を供給したかを説明している。大まかにいって、対外資産の純増、政府部門向け信用、民間向け信用の三つがおもな通貨供給の要因である。
通貨はまた対外的な取引に際して一国を代表する。そこでは外国の通貨に対して一定の通貨価値を示すこととなる。2国間におけるそれぞれの通貨の交換比率を為替(かわせ)相場という。1973年以後、主要先進諸国は変動為替相場制に移行して今日に至っているが、その間為替相場は乱高下を繰り返している。
[原 司郎・北井 修]
『堀内昭義著『金融論』(1990・東京大学出版会)』▽『鹿野嘉昭著『日本の金融制度』第2版(2006・東洋経済新報社)』
通貨とは狭い意味の貨幣を意味するが,場合によっては貨幣とまったく同義に使用されることもあり,明確な定義は存在しない。第1次大戦前の金本位制度のもとでは,商品貨幣としての金が本来の貨幣であり,銀行券は金との交換性を保持している場合にのみ本来の貨幣と同じ機能をはたすものと考えられていた。その場合には金が通貨であり,銀行券は紙券であった。ところが,第1次大戦後金本位制度が崩壊して管理通貨制度に移行したのにつれて,銀行券または政府紙幣が本来的な貨幣の地位を占めるようになり,信用取引制度の発達とともに小切手の振出しによって移転される当座預金(広義では要求払預金)が決済手段として使用されるようになってきた。このような変化を反映して中央銀行の債務である銀行券を現金通貨と呼び,他方,要求払預金を預金通貨と呼ぶようになった。ところで,第2次大戦後,金融機構の発達に伴って種々の金融資産が創出されたが,そのなかには貨幣ときわめて類似した性格のものもあった。したがって金融動向を考察するには,貨幣のみならず,それら貨幣性の高い金融資産をも考慮しなくてはならなくなった。これらのものを通貨に準ずるものという意味で準通貨と呼んでいる。しかし最近では貨幣概念のなかに預金通貨を当然入れるべきだとする考え方が一般的になってきているので,通貨という用語は金融分析ではしだいに使われることが少なくなってきている。したがって今日では,日本で通貨といえば日本銀行券と補助貨幣との合計額だということができよう。
近年の通貨流通高をみると,日本銀行券の占める割合は93%と圧倒的に大きい(1996年末)。また現金通貨と預金通貨の割合をみると,現金通貨は24%,預金通貨は76%と,後者は前者の約3倍の大きさになっている。さらに,現金通貨に対して準通貨を比べると約10倍となっている。この点からみると,通貨量あるいは流動性の大きさを調整することによって金融政策効果を収めようとする場合,現金通貨の重要性はきわめて小さいようにみえるかもしれない。だが,現金通貨の重要性を量的な大きさだけから判断することは妥当でない。というのは,公衆(家計と企業)が現金通貨を保有する場合と金融機関が保有する場合とでは,その経済的効果は著しく異なるからである。すなわち,公衆にとっては現金通貨で保有しようが,あるいは預金通貨で保有しようが,その流動性効果はなんら異なることはない。しかし金融機関に流入した現金通貨は信用創造のメカニズムを通じて現金通貨量の乗数倍の預金通貨を創出するからである。この意味では預金通貨による取引決済を支えているのは現金通貨だということができ,巨額の準貨幣も最終的には現金貨幣供給が基盤になっているといっても差支えないであろう。この点に金融政策の根拠が求められるのである。
なおマネー・サプライ分析においては,現金通貨と預金通貨を総称してM1(通貨)と呼び,これに準通貨を加えたものをM2と呼ぶ。
執筆者:山下 邦男
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