SDR(読み)えすでぃーあーる

日本大百科全書(ニッポニカ) 「SDR」の意味・わかりやすい解説

SDR
えすでぃーあーる

国際通貨基金IMF)の特別引出権special drawing rightsの略称。IMF加盟国が外貨不足に陥った際、アメリカ・ドルなどの国際通貨を引き出せる権利のことで、国際準備資産と位置づけられる。IMF加盟国にはIMFへの出資比率に応じて特別引出権が割り当てられ、金融・経済危機で外貨が不足した場合、特別引出権を他の加盟国に売って、アメリカ・ドル、ユーロ、日本円などにかえてもらうことが可能である。このため特別引出権は準備通貨ともよばれ、通貨単位にはSDRが用いられる。現在、特別引出権の価値はアメリカ・ドル、イギリスポンド、日本円、ユーロ、中国人民元の主要5通貨の貿易量に応じた加重平均標準バスケット方式)で決められる。またバスケットのなかの各通貨の額は5年ごとに見直される。このためSDRは実在する通貨ではなく、合成通貨や暗号資産の一種でもある。特別引出権は2019年3月時点で2042億SDRが発行・配分され、その価値は2020年12月時点で1SDR=1.47638ドルである。特別引出権は政府のみが保有し、企業や個人は入手できない。

 第二次世界大戦後、世界貿易の拡大に伴って、ドルや金にかわる加盟国の準備資産を補完する目的で、1969年にIMFが特別引出権を創設した。金融・経済危機で外貨が不足した国を支援し、危機の他国への連鎖を防ぐ役割を担っている。当初、SDRの価値は金によって表示(1SDR=純金0.888671グラム)されたが、変動為替(かわせ)相場制への移行で金表示をやめ、貿易比重の大きい主要16か国の通貨価値のバスケットで決めることになった。さらに簡便化するため1981年にアメリカ、イギリス、西ドイツ、日本、フランスの通貨バスケットに改正された。1986年からは5年ごとに構成通貨を見直しており、2001年にユーロが、2016年には中国人民元が構成通貨に採用された。構成通貨になるには、(1)貿易量が多い、(2)自由に取引できる、の2条件を満たす必要がある。構成通貨に採用されれば、世界で広く使用されている国際通貨として信認されたことになる。

[矢野 武 2018年4月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「SDR」の意味・わかりやすい解説

SDR
エスディーアール
Special Drawing Rights; SDR

国際通貨基金 IMFからの特別引出権。国際流動性の不足を補填することを目的として 1970年1月に正式発効した。IMFへの出資額に応じて加盟国に割り当てられ,対価として他国から外貨または自国通貨を取得できる。当初 1SDRは 1米ドル,純金 0.888671gと等価値とされていたが,1974年7月以降,16ヵ国の通貨の為替レート加重平均した標準バスケット方式で決定されるようになった。その後,1978年に一部通貨の入れ替えとウエイト(比率)修正を行なったのち,1981年1月からは,アメリカ合衆国のドル,日本の,ドイツ連邦共和国(西ドイツ)のマルク,イギリスのポンド,フランスのフラン(フランスフラン)の,5ヵ国の通貨による標準バスケット方式となった。各通貨のウエイトは 5年ごとに見直しが行なわれる。1999年1月,ヨーロッパ連合 EUの単一通貨ユーロの誕生により,フランとマルクに代わりユーロが構成通貨となった。また,2015年11月の見直しで中国の人民元が構成通貨に加わることが決定,2016年10月に正式に導入された。

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