改訂新版 世界大百科事典 「哀悼傷身」の意味・わかりやすい解説
哀悼傷身 (あいとうしょうしん)
哀悼の意あるいは服喪を表現するために,自己の身体の一部を傷つける習俗をさす。その方法としては歯を抜く(ポリネシア,中国のケラオ族),指を切り落とす(ニューギニア,メラネシア,ポリネシア)などの例もあるが,世界的に広く分布しているのは,顔や身体に傷をつけることや,髪を切ることであって,ユーラシア,アメリカ,アフリカ,オセアニアに広がっていた。断髪は一般的にいって傷身の緩和された形式といえよう。哀悼傷身はユーラシアとポリネシアでは王侯や夫の死に際し,臣下や妻が行い,殉死の代用的な性格が強いが,南アメリカでは階級分化のみられない未開農耕民や狩猟民が行っていて,浄めの機能をもつといわれる。日本では646年(大化2)の薄葬の詔(《日本書紀》巻二十五)に,死者のために髪を断(き)り,股(もも)を刺して哀悼の意を表する習俗があったことが記されており,ユーラシア内陸部の騎馬民族の習俗につらなるものと考えられる。
→身体変工 →葬制
執筆者:大林 太良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報