日本大百科全書(ニッポニカ) 「因明正理門論」の意味・わかりやすい解説
因明正理門論
いんみょうしょうりもんろん
サンスクリット名は『ニヤーヤムカ』Nyāyamukhaという。新因明(論理学)を確立したインドの仏教論理学者陳那(じんな)(ディグナーガ、480―540ころ)の著作。彼の主著『集量論(じゅりょうろん)』に比べいまだ討論術綱要書の性格が強く、第1部では論証を構成する主張、証因、喩例(ゆれい)の三支(さんし)、第2部では知覚と推理、第3部では論難が定義、検討される。証因の三相説と独自の九句因説により論証理論は完成され、論難の誤謬(ごびゅう)には新解釈が与えられている。のちに発展する概念論(アポーハ論)の萌芽(ほうが)もみられる。サンスクリット原典は散逸し、玄奘(げんじょう)による漢訳のみ現存する。
[桂 紹隆]
『宇井伯寿著『印度哲学研究 第5巻』(1929・岩波書店)』