日本大百科全書(ニッポニカ) 「夏越」の意味・わかりやすい解説
夏越
なごし
旧暦6月30日の祓(はら)いの行事。名越とも書く。水無月(みなつき)つごもりの大祓いといい、宮中をはじめ民間においても忌(い)み日として祓いの行事が行われた。この日、輪くぐりといって氏神の社前に設けた大きな茅(ち)の輪(わ)をくぐり災厄を祓う。宮廷においても故実として清涼殿で行われたことは『御湯殿上日記(おゆどののうえにっき)』などに記されている。神社からは氏子の家に紙人形(かみひとがた)を配布し、それに氏名・年齢を記してお宮に持参して祓ってもらう。
この時期は農家にとって稲作や麦作などに虫害・風害などを警戒するだいじなときであったので、祓いの行事がいろいろと行われている。藁(わら)人形をつくり太刀(たち)を持たせて水に流す地方もあり、小麦饅頭(まんじゅう)や団子をつくって農仕事は休む。中国地方から北九州にかけて海辺の地方では海に入って身を清め、牛馬をも海に入れて休ませる。長崎県壱岐(いき)島ではイミといって斎忌を厳重に守る。この日だけは河童(かっぱ)が出ないといって自由に海に入って泳ぐという。
[大藤時彦]