夢遊の人々(読み)むゆうのひとびと(その他表記)Die Schlafwandler

日本大百科全書(ニッポニカ) 「夢遊の人々」の意味・わかりやすい解説

夢遊の人々
むゆうのひとびと
Die Schlafwandler

オーストリアの作家ヘルマン・ブロッホの三部作長編小説。1931~32年刊。『夢遊病者たち』の邦訳名もある。19世紀末から第一次世界大戦までを三つの時期に分け、第一部『ロマン主義』では若い将校が昔のよき時代を回想したりして現実から逃避しようとし、第二部『無政府主義』では失業した主人公が社会の矛盾に打ちのめされ、ただやみくもに地上楽園を夢み、第三部『即物主義』では殺人をも平気で行う非情な論理の具現者、ヒトラーのごとき人物が現れる。ことに第三部では、直接関係のないいくつかの筋が編み合わされ、詩や文明批評エッセイも挿入され、旧来の小説形式が解体されて、現代文明の危機的状況を描いた内容にふさわしい小説構成となっている。

[入野田眞右]

『菊盛英夫訳『夢遊の人々』(1971・中央公論社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の夢遊の人々の言及

【ブロッホ】より

…仕事をやめると同時に著作活動をはじめた。1932年に完成した小説《夢遊の人々》は,〈1888年,パーゼノウあるいはロマン主義〉〈1903年,エッシュあるいは無政府主義〉〈1918年,ユグノーあるいは即物主義〉の3部にわかれ,15年ずつの間隔をおいた三つの時期,30年にわたってのドイツの中流社会の解体,精神的に不毛となった即物的人間の出現をとおして諸価値の崩壊を描く哲学的小説であるが,全体性と非合理的なものの統一という構成面でジョイスの《ユリシーズ》の影響をうけている。38年ナチスによるオーストリア併合時にゲシュタポに逮捕されたが,ジョイスの尽力で釈放されアメリカに亡命した。…

※「夢遊の人々」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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