宇宙政策(読み)べいこくのうちゅうせいさく/うちゅうせいさく(その他表記)(U.S.) space policy

知恵蔵 「宇宙政策」の解説

宇宙政策(米国の)

米国の宇宙開発は、1957年に旧ソ連に先を越されたスプートニク・ショックの直後、58年に創立されたNASA(米航空宇宙局)が中心となって進められている。これまで、旧ソ連との宇宙開発競争を軸にして、アポロ計画スカイラブ計画スペースシャトル計画を展開してきたが、現在はロシアも含めた国際宇宙ステーション計画を遂行中。財政状態の緊迫を迎えて、NASAは90年代からは、戦略の基礎として「より早く、より良く、より安く(Faster, Better, Cheaper)」というスローガンを打ち出し、この方針に基づいて惑星探査のためのディスカバリー計画、宇宙・太陽系・生命の起源を追究するオリジン計画、21世紀の新しい宇宙技術を開発するニューミレニアム計画などに取り組んでいる。NASAは、各分野にわたりバランスのとれた宇宙政策を展開しており、ポスト・シャトルの将来型宇宙輸送システムの開発などリスクを伴う課題はNASAが大きな負担を担い、すでに技術の確立した使い切りロケット民間に移す方針を堅持してきている。コロンビア事故の影響を受けて、04年1月、ブッシュ大統領は新宇宙政策を発表した。ここ数年にわたってNASAが抱えてきた問題には、3つの要素が絡み合っていた。(1)現在のスペースシャトルの老朽化、(2)国際宇宙ステーション(ISS)の建設の遅れとその意義の問い直し、(3)次世代シャトルの開発の停滞である。04年1月15日に発表されたブッシュ米大統領の「新宇宙政策」は、(1)と(2)に早めに決着をつけ、(3)を新たな輸送機に置き換えることで、宇宙開発の沈滞ムードの吹き飛ばしを狙ったもの。まず、遅れているISSの完成に2010年というデッドラインを引いた。また、その完成と共にスペースシャトルを引退させ、それに代わる輸送機としては、CEVを提案している。また新たな目標として月への有人飛行と月面基地建設、さらに火星への人間の進出を展望している。なお、米国の宇宙政策を特徴づけているのは、世界の「リーダーシップを握ること」である。

(的川泰宣 宇宙航空研究開発機構宇宙教育センター長 / 2007年)


宇宙政策(中国の)

中国の政府系の宇宙機関の中心は中国国家航天局(CNSA)で、国家政策の策定、計画全体の維持運用、外国との公的窓口となっている。1998年から翌年にかけて、民主化政策も関連して大きな組織改革が行われ、航天局から分離して半官半民の中国航天科技集団公司が設立された。ロケット、ミサイル、人工衛星、有人機などの開発、派生する民生用機器の開発・生産、宇宙関連機器の輸出入、国際協力の実施などを行っている。この二大機関の傘下に、火箭(ロケット)技術研究院、空間(宇宙)技術研究院などの研究開発組織がある。ロケットは「長征」シリーズで、近年では世界最高の打ち上げ成功率。衛星は実用衛星が中心だが、月や火星への飛行計画も発表している。2003年10月15日午前10時(日本時間)、長征2Fロケットによって打ち上げた有人宇宙船神舟(シェンチョウ)5号が無事に軌道に乗り、中国は旧ソ連、米国に次いで世界で3番目の自力有人飛行成功国となった。神舟に乗り込んだ中国初の宇宙飛行士楊利偉(ヤン・リーウェイ)は、21時間にわたり地球を周回し、16日午前7時過ぎ、パラシュートを使って内モンゴル自治区に帰還した。神舟はロシアの有人宇宙船ソユーズに酷似し、ロシアからの技術提供・指導があったと推察されるが、中国によるいくつかの工夫も見られる。中国は05年10月に2度目の有人宇宙飛行を成功させており、07年から08年にかけて月周回衛星を打ち上げ、その後無人の月着陸機を、さらに17年までには月への有人飛行の取り組みを始め、いずれ月面に人を送り込むという計画を発表している。その動機は「国家威信の誇示」である。

(的川泰宣 宇宙航空研究開発機構宇宙教育センター長 / 2007年)


宇宙政策(欧州の)

欧州で宇宙開発を進めている15カ国がESA(欧州宇宙機関)を結成して、共同の努力をしている。各国はそれぞれの宇宙計画を持つと同時に、大規模な計画についてはESAを中心に展開している。本部はパリ。オランダのノルドバイクにESTEC(欧州宇宙技術研究センター)、ドイツのダルムシュタットにESOC(欧州宇宙運用センター)、イタリアのフラスカティにESRIN(欧州宇宙研究情報センター)があり、人工衛星・探査機の打ち上げには共同出資のアリアン・ロケットが使われている。発射場は、南米の仏領ギアナにある。アリアン・ロケットは世界の商業打ち上げ市場の50%以上のシェアを誇る。フランス、ドイツ、イタリアが3大出資国。宇宙科学分野の長期計画としては、ロゼッタ(彗星ランデブー計画)を始めとするホライズン2000プラスを有している。現在はコズミック・ビジョンと称する、より連続性のある安価な計画に方針転換しつつある。欧州の宇宙政策を貫く思想は「米国からの自立」である。

(的川泰宣 宇宙航空研究開発機構宇宙教育センター長 / 2007年)


宇宙政策(ロシアの)

1991年から翌年にかけて起きた政情の激変にもかかわらず、旧ソ連の宇宙政策の多くはロシア連邦に引き継がれた。特に旧ロシア共和国では、RSA(ロシア宇宙庁)を92年に設立し、それをRASA(ロシア航空宇宙庁)に発展、現在はFSA(Federal Space Agency)と呼んでいる。国際宇宙ステーション(ISS)への参入など精力的な動きを見せているほか、民間では、欧米の国々の企業との合弁企業も多数設立されている。86年に建設され14年間活躍した後、2001年3月末に制御落下した宇宙ステーション「ミール」の経験は、現在のISSに生かされている。ロシアの宇宙政策追求の主な目的は「外貨の獲得」である。

(的川泰宣 宇宙航空研究開発機構宇宙教育センター長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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