翻訳|parachute
落下傘ともいう。パラシュートは,飛行中の航空機から投下される物資や降下する乗員などの降下速度あるいは前進速度をゆるやかにするため,空気抵抗を発生させる装備である。パラシュートの主要な用途としては,(1)航空機乗員の脱出降下,(2)物資の投下,(3)兵員の降下,(4)ミサイル,宇宙船,小型航空機の回収,(5)航空機の着陸時における制動,(6)爆弾,機雷などの降下率調整などがあり,パラシュートを使用したスポーツとしてスカイダイビングがある。パラシュートに類するものを最初に使用したのは,フランス人のルノルマンLouis-Sébastien Lenormandであるといわれており,1783年にモンペリエ天文台の塔から4.3mの降下を行っている。本格的に実用化されたのは,20世紀に入ってからであり,飛行機からの降下は,1912年にアメリカのベリー大尉Albert Berryが初めて行った。第1次世界大戦においては,イギリスが艦船からあげた係留気球の乗員の保安用として使用し,第1次大戦末期には,ドイツが航空機乗員の保安用に用いている。28年には物資の投下や兵員の降下についての研究が始まり,40年に米軍が空挺部隊の編成を行った。第2次大戦ころからはパラシュートの用途の拡大に伴い,理論的な研究も進み,リボン傘や滑空式パラシュートが考案されている。第2次大戦後は航空機のジェット化に従い,超音速飛行中および高高度での使用を可能とするための努力が行われ,これらの成果は,アポロ宇宙船の回収などに使用されている。
パラシュートの材料は,通常,木綿,絹,レーヨン,ナイロンなどで,宇宙船回収時のように高温に対処する場合は複合材料などを用いる。基本的な構成は,主傘,補助傘,吊索,吊索を物資などに装着するための装帯,収納袋などから成っている。人体用のパラシュートの場合,直径約10mの主傘を使用する。物資投下用パラシュートは,投下する物資の重量に応じて各種のものがあるが,大型輸送機で使われるものでは,直径約30mのパラシュートを6個結合し,20数tの物資を投下できるものがある。航空機の着陸時に減速のため使用される制動傘(ドラグシュート)は,機体重量などにより,直径5~14mのリボン傘などを用いる。パラシュートは,半球状をした主傘に吊索を取り付けた構造となっているのが一般的であるが,目標地点への正確な降下を容易にするため,スカイダイビングなどで使用するパラシュートでは,滑空角度などを制御できる滑空式のものがある。また,リボン傘では幅が5cm程度のリボンを組み合わせて傘体を構成する。
執筆者:青山 謹也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
空中を落下する人や物の落下速度を空気の抵抗を利用して減速し、安全に着地させる傘状の器具。落下傘ともいう。イタリア語の「守る」parareとフランス語の「落下する」chuteとの合成語である。人間の「飛ぶ」欲望をもっとも安易に実現する手段として1300年代に中国で用いられたと伝えられているが、1400年代にはレオナルド・ダ・ビンチのデザイン・スケッチのなかにそのアイデアが記録されている。17、18世紀には見せ物として興味本位に使われたが、実用的には1797年のフランスのガルネランA. J. Garnerinの実験が最初といわれる。その後、軍用気球や飛行機搭乗員の救命用として装備されるようになり、さらに人員や物資の降下・投下などに用途が広がった。
現在のパラシュートは、軍用と非軍用、人員用と物資用、空中用と地上用などに分類される。軍用としては救命用のほか、照明弾・信号弾や爆弾などの滞空時間の延長、兵員・車両・兵器・弾薬その他の物資の降下・投下用に使われる。非軍用としては、スポーツ、つまりスカイダイビングや、遭難者救助のための人員・物資の投下、宇宙船の地上帰還の際の減速などに使用されている。地上での用途は減速・制動用で、軍用機のドラッグシュート、スキーの急斜面滑降、競走用自動車などに用いられる。また、超大型船のブレーキ用として水中での使用も実験されている。
一般的な構造としてはナイロン製の傘体(さんたい)、人員・物資のつり下げ部、およびそれらを結ぶ多くの紐(ひも)から構成される。傘体はほとんどが半球形であるが、スカイダイビング用には飛行機の翼のような断面をもつ四角形のパラシュートがあり、紐の操作によってかなりの範囲で降下の方向を変えることができる。パラシュートの取扱い・操作には熟練を要するほか、重量もかさむので、旅客機に搭載して乗客の安全確保に使用することはまず不可能である。
[落合一夫]
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