日本大百科全書(ニッポニカ) 「パラシュート」の意味・わかりやすい解説
パラシュート
ぱらしゅーと
parachute
空中を落下する人や物の落下速度を空気の抵抗を利用して減速し、安全に着地させる傘状の器具。落下傘ともいう。イタリア語の「守る」parareとフランス語の「落下する」chuteとの合成語である。人間の「飛ぶ」欲望をもっとも安易に実現する手段として1300年代に中国で用いられたと伝えられているが、1400年代にはレオナルド・ダ・ビンチのデザイン・スケッチのなかにそのアイデアが記録されている。17、18世紀には見せ物として興味本位に使われたが、実用的には1797年のフランスのガルネランA. J. Garnerinの実験が最初といわれる。その後、軍用気球や飛行機搭乗員の救命用として装備されるようになり、さらに人員や物資の降下・投下などに用途が広がった。
現在のパラシュートは、軍用と非軍用、人員用と物資用、空中用と地上用などに分類される。軍用としては救命用のほか、照明弾・信号弾や爆弾などの滞空時間の延長、兵員・車両・兵器・弾薬その他の物資の降下・投下用に使われる。非軍用としては、スポーツ、つまりスカイダイビングや、遭難者救助のための人員・物資の投下、宇宙船の地上帰還の際の減速などに使用されている。地上での用途は減速・制動用で、軍用機のドラッグシュート、スキーの急斜面滑降、競走用自動車などに用いられる。また、超大型船のブレーキ用として水中での使用も実験されている。
一般的な構造としてはナイロン製の傘体(さんたい)、人員・物資のつり下げ部、およびそれらを結ぶ多くの紐(ひも)から構成される。傘体はほとんどが半球形であるが、スカイダイビング用には飛行機の翼のような断面をもつ四角形のパラシュートがあり、紐の操作によってかなりの範囲で降下の方向を変えることができる。パラシュートの取扱い・操作には熟練を要するほか、重量もかさむので、旅客機に搭載して乗客の安全確保に使用することはまず不可能である。
[落合一夫]