改訂新版 世界大百科事典 「川前里書石」の意味・わかりやすい解説
川前里書石 (せんぜんりしょせき)
韓国南東部の慶尚南道蔚州郡斗東面川前里九曲渓にある巨石遺物。同地は慶州から東海岸の蔚山(うるさん)地方へ出る交通の要衝にあたるが,この巨石は高さ3m,幅10m余の垂直な平面をもち,1970年,その平面に絵画彫刻と人名を主とした約300字の銘文があることが知られた。銘文は何度も追記されており,年代決定の基点は〈己未年〉と〈興王〉の文字で,これは新羅の法興王26年(539)と考えられている。より古い銘文は〈乙巳〉の干支をもつ部分で,法興王12年(525)にあたる。ほかに〈乙丑〉(545),〈開成3年〉(838)等多くの年記があって,6世紀から9世紀にかけてここに遊興した新羅人たちが,次々にこの巨石に銘文を残したものである。その中には法興王と高官のほか,随行した〈作食人〉の名もある。また花郎の名も多くみえ,ここが貴族青年たちの修練の場であったことが知られる。
執筆者:浜田 耕策
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