巴(能)(読み)ともえ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「巴(能)」の意味・わかりやすい解説

巴(能)
ともえ

能の曲目。二番目・修羅(しゅら)物。五流現行曲。女武者をシテとする唯一の女修羅である。出典は『平家物語』の「木曽(きそ)の最後の事」。木曽から出た僧(ワキ。ワキツレを伴うことも)が琵琶(びわ)湖のほとり粟津(あわづ)の原に着く。神社に詣(もう)で涙を流す里の女(前シテ)に僧はことばをかけ、木曽義仲(よしなか)を祀(まつ)る場所であることを知る。女はわが身を亡者と告げ、入相(いりあい)の鐘の音とともに消える。読経する僧の前に、武装りりしい巴御前(ともえごぜん)(後(のち)シテ)が現れ、夫であり主君である義仲の、粟津での無念の最期、女ゆえに死出の供を許されなかった悔しさを語る。重傷の義仲に自害を勧め、薙刀(なぎなた)を振るって敵を蹴(け)散らす巴の武勇を再現し、遺言のままに形見を持ち、故郷へ落ちて行った後ろめたさを語り、執心への回向(えこう)を頼んで終わる。終曲部で武装を解き、姿をやつして戦場を去る場面も印象的で、愛情と武勇の二つが融和した佳作

増田正造

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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