回向(読み)エコウ

デジタル大辞泉 「回向」の意味・読み・例文・類語

え‐こう〔ヱカウ〕【回向/×廻向】

[名](スル)仏語
死者成仏を願って仏事供養をすること。「冥福を祈って―する」
自分の修めた功徳くどくを他にも差し向け、自他ともに悟りを得るための助けとすること。
浄土真宗で、阿弥陀仏が人々に救いの働きを差し向けて浄土に迎えること。
寺への寄進のこと。
「沙金錦絹を徳長寿院へ―し奉るべし」〈盛衰記・一〉
回向文えこうもん」の略。
[類語]供養花供養施餓鬼

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共同通信ニュース用語解説 「回向」の解説

回向

回向えこう 自分の善行によって得た功徳を、他人に振り向けること。これによって自他ともに悟りを開けるとされている。

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精選版 日本国語大辞典 「回向」の意味・読み・例文・類語

え‐こうヱカウ【回向・廻向】

  1. 〘 名詞 〙 仏語。
  2. ( 「回」はめぐらす、「向」はさし向けること ) 自分の行なった善根功徳をめぐらし、自分や他のもののさとりにさし向けること。このうち、積んだ善根功徳を、自己のさとりにさし向けることを菩提回向、他のものの利益にさし向けることを衆生回向といい、回向そのものにとらわれないで、そこに平等真実の理をさとることを実際回向という(三種回向)。また、特に浄土往生に資することを往相(おうそう)回向、再びこの世に帰ってきて、他を教え導き、浄土に向かわせることを還相(げんそう)回向という(二種回向)。
    1. [初出の実例]「大法申斯紹隆、群生以之回向」(出典:南天竺波羅門僧正碑并序‐神護景雲四年(770)四月二一日)
    2. 「さりがたき御ゑかうのうちには」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
    3. [その他の文献]〔往生論註‐下〕
  3. 他に向いていた心を浄土の教えに向けること。回心(えしん)。〔具三心義‐上〕
  4. 浄土真宗で、阿彌陀如来がその仏徳の力を衆生にさし向けて衆生を極楽往生に迎えること。
    1. [初出の実例]「願土にいたれば、すみやかに无上(むじゃう)涅槃(ねはん)を証してぞ、すなはち大悲を起こすなり。これを廻向と名づけたり」(出典:三帖和讚(1248‐60頃)高僧)
  5. 読経念仏など、善根の功徳を死者に手向けること。死者の冥福を祈って読経をしたり、念仏を唱えたり、供えをしたりすること。供養。たむけ。
    1. [初出の実例]「また阿彌陀経三巻を三ところの聖霊の御ために廻向し申させたまふ」(出典:法華修法一百座聞書抄(1110)六月一九日)
  6. 回向の偈文(げもん)を唱えること。また、その文。回向文(えこうもん)
    1. [初出の実例]「たふときこと、九条の錫杖。念仏のゑかう」(出典:枕草子(10C終)二七九)
  7. 信心のために寺に物を寄付すること。布施。寄進。
    1. [初出の実例]「ある時は御劔御衣、ある時は沙金錦絹を、徳長寿院へ廻向(エカウ)し奉るべしとて下し賜ひけり」(出典:源平盛衰記(14C前)一)

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改訂新版 世界大百科事典 「回向」の意味・わかりやすい解説

回向 (えこう)

(1)仏教用語。自己が修した善根の功徳を他の衆生または自己の菩提の完成のためにふり向けること。また死亡した有縁の者のために善根を修する〈追善〉のこと。サンスクリット語パリナーマナpariṇāmanaの漢訳。自業自得の理に矛盾する観念のため小乗では否定されるが,大乗では利他と平等観の立場から説かれる。絶大な善根を積んだ仏とその恩恵を受ける衆生の関係にも適用される。とくに親鸞は仏の衆生に対する〈他力の回向〉のみを認め,修行者の〈自力の回向〉を否定した。
執筆者:(2)声明(しようみよう)曲の曲名,また分類名。回向文(えこうもん)ともいう。一つの法要の終結部で,その法要の功徳が全世界へ回向されることを願って唱える声明。〈回向三宝,回向天衆,回向伽藍……〉などと対象を一つずつ上げて行く別回向の形式のものと,〈願以此功徳,普及於一切……〉または〈願以此功徳,平等施一切……〉などと対象を一括する総回向の形式のものとある。歌詞も曲節も多くの種類があるので,内容や歌詞によって《六種回向》《世尊回向》などと呼び分けられることもある。なお,《散花(さんげ)》の終段が〈願以此功徳……〉の歌詞になっているなど,回向段・回向句を含む別種の声明曲もあるが,その場合は法要の終結部には置かれない。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「回向」の意味・わかりやすい解説

回向
えこう

仏教において、自己が仏道を修めた善い行為や功徳(くどく)を、すべての人々の悟りのために振り向けることをいう。一般に、サンスクリット語パリナーマナーpariāmanāの訳とし、廻向とも書く。大乗仏教では善行の結果が悟り(正覚(しょうがく))に向けられるためには、衆生(しゅじょう)に功徳を施し、ともに仏になることが強調された。とくに浄土教では、念仏を唱え、浄土に思いを巡らして、往生を願うことを意味した。回向には二つあり、自分の功徳を人々に振り向けて、ともに極楽浄土に往生しようと願うのを往相(おうそう)回向といい、ひとたび極楽浄土に生まれたものが、ふたたびこの世に還(かえ)って、人々を教化し、浄土を願うように振り向けることを還相(げんそう)回向という。また、施しなどの回向が自分の亡き親属血縁に及ぶことを記した経典の記述などがあり、仏事法要を営んだ結果、その功徳が死者のその後の安穏(あんのん)をもたらし、仏道に向かわしめることをいうようになった。

[石上善應]

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百科事典マイペディア 「回向」の意味・わかりやすい解説

回向【えこう】

サンスクリット,パリナーマナの漢訳。自分の修めた善行の功徳(くどく)を他に回(めぐ)らし向けて,ともに悟りを得るよう期すること。浄土教では往相・還相(げんそう)の二回向を説き,前者は浄土に往生すること,後者は衆生を救うため再びこの世に還(かえ)ってくることとするが,親鸞はこれをともに阿弥陀仏の他力によるとした。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「回向」の意味・わかりやすい解説

回向
えこう
pariṇāma

仏教用語。廻向とも書く。自分が行なった善をめぐらし翻して,他人をも悟りの方向にさしむけること。転じて仏事法要を営んで死者を追善すること。

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世界大百科事典(旧版)内の回向の言及

【善】より

…なお,善は計量されうるものであり,しかも移行可能であると考えられている。仏教でいう回向(えこう)(追善回向)とは,みずからが保持している善の一部を,他人(死者も含む)に譲渡することである。【宮元 啓一】。…

※「回向」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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