改訂新版 世界大百科事典 「広義国防」の意味・わかりやすい解説
広義国防 (こうぎこくぼう)
満州事変後,陸軍が提唱した政策論。陸軍省新聞班は,1934年10月1日《国防の本義と其強化の提唱》と題するパンフレットを発刊,国防政策は単なる武力のみでなく,〈国家の全活力を最大限に発揚せしむる如く,国家及社会を組織し運営〉しなければならないと唱え,国防の観点から国民生活の安定,農山漁村の更生,国民教化の振興などの問題をも提起した(陸軍パンフレット事件)。この立場が〈広義国防〉と呼ばれるようになり,36年の二・二六事件以後,軍部の強い影響のもとで成立した広田弘毅内閣の〈庶政一新〉政策は,こうした広義国防の観点に立つものとみられた。以後,林銑十郎内閣にかけて,この言葉は政策論議のなかで広く使われるようになり,同時に,軍備のみを重視する立場を〈狭義国防〉と呼ぶ用語法もあらわれている。当時のこの問題をめぐる論議には,広義国防論が軍部の国政全般への介入を結果することを強く警戒するものと,この立場に立って,国民生活の安定,とくに農村救済を訴えていこうとするものとがみられた。日中戦争全面化以後,総動員政策の実施とともに,この言葉もみられなくなり,やがて代わって高度国防国家論があらわれることになる。
執筆者:古屋 哲夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報