改訂新版 世界大百科事典 「日〓遺文」の意味・わかりやすい解説
日遺文 (にちれんいぶん)
御書,御抄,祖書,御妙判ともいう。日蓮の著作,書状,図録等の総称。現在伝えられている遺文は,著作・書状493編,図録65編,それ以外に真跡断簡357点を数える。これらの伝存形態は,真跡,写本,刊本の三つで,真跡の残存状態は,完全に現存,ほぼ完全に現存,ある部分が欠失,断片・断簡が現存などで,これにかつて存在したことの明らかなものを準じてよいであろう。写本には,個別遺文の写本と集成された遺文集《録内御書》《録外(ろくげ)御書》があり,個別写本は日蓮の直弟・孫弟子による書写,《録内御書》はほぼ15世紀のころ集成され,その後《録内》未収録のものを《録外》として集成された。遺文の刊行は近世に入ってからで,17世紀には,《録内》《録外》ともに刊行され,日蓮研究のテキストとなった。また,重要遺文を先に配列した方式に対して,編年体の編集も行われた。写本については諸本の系統と底本の問題,刊本ではその底本の問題等究明すべき点がなお残されているが,遺文は,日蓮の思想と行動を明らかにする基本的文献であるばかりでなく,鎌倉時代の政治・社会・文化の状況を照射している史料ともなっている。
執筆者:高木 豊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報