書写
しょしゃ
本来は書き写すという意味の語であるが、学校教育においては一つの学習指導分野をさし、文部省(現文部科学省)は1958年(昭和33)改訂の小・中学校学習指導要領から、在来の「書き方」「習字」の呼称にかえて「書写」の語を用いることにした。国語のなかで毛筆と硬筆により「文字を正しく整えて書く」ことを目ざすという、国語における学習指導の主旨を鮮明にするためであった。伝統的な用語を避けて、あえてこれまでなじみの薄かった「書写」の語に切り替えたことの背景には、「習字」の語につきまとう精神主義や「毛筆による手習い一辺倒」の学習からの脱却を図り、「日常、硬筆によって文字を書くこと」に有効に機能する学習を目ざす意図があった。
このとき以降、「書写」が正規の学校教育用語となったが、社会には十分になじまれない面があり、従前の「習字」の語が学校教育の場で誤用されることが多い。
[久米 公]
『阿保直彦ほか編、加藤達成監修『書写・書道教育史資料』全3巻(1984・東京法令出版)』▽『久米公著『書写書道教育要説』(1989・萱原書房)』▽『続木湖山編書『毛筆書写事典』新版(1991・教育出版)』▽『新書写教育研究会概要編集委員会編『書写教育概要』新訂2版(1993・ぎょうせい)』▽『上条信山著『新書写書教育事典――理論と実践』(1993・木耳社)』▽『全国大学書写書道教育学会編『新編書写指導』(2003・萱原書房)』
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
しょ‐しゃ【書写】
[1] 〘名〙
① (古くは「しょじゃ」とも) 書き写すこと。多く、文献を一字一字書き写して同じものを作ることをいう。
※令義解(833)僧尼「凡僧尼有
レ犯
二苦使
一者。修
二営功徳
一。〈
謂。書
二写経典
一。荘
二厳仏象
一之類也〉」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)出羽三山「書写、黒の字を里山となせるにや」 〔後漢書‐樊宏伝〕
② 小学校・中学校の国語科の科目の一つ。字を正確に速く美しく書くことを学習する。従来の「書き方」「習字」にあたるもので、昭和三三年(一九五八)の学習指導要領で改訂。四つの言語活動のうち「書くこと」が作文と書写に分けられる。
※今昔(1120頃か)一七「
鎮西、肥前の国の
背振の山と云ふ所は、書写の
性空聖人の行ひ給る所也」
かき‐うつ・す【書写】
〘他サ五(四)〙
① 文字、絵などを見て、それに似せ、またはその通りに書き取る。写し取る。
※観智院本三宝絵(984)下「もしこの三世三劫の諸仏の名をききて或はよくかきうつし」
※枕(10C終)七五「物語・集などかきうつすに」
② 人の性格、物事の状態などを、絵や文章に書いて表わす。描写する。
※人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)四「勝り劣らぬ両女の実意、なかなか筆には書写(カキウツ)し難し」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
世界大百科事典内の書写の言及
【習字】より
…その後,習字教育復活の声が強くなり,51年の学習指導要領では,小学校四年生以上で,国語科の時間に毛筆習字を課することが可能になった。また68年以降は名称が〈書写〉に変わり,現在は小学校三年生から毛筆による書写が,硬筆による書写(一年生から)とともに課されるようになっている。高校では,音楽,美術などとならんで書道が芸術教科の一つとして選択課目となっている。…
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出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報