暗行御史(読み)あんこうぎょし

改訂新版 世界大百科事典 「暗行御史」の意味・わかりやすい解説

暗行御史 (あんこうぎょし)

朝鮮,李朝時代の臨時官職の一つで,地方官の不正摘発,地方民情の探索任務とした。御史とは臨時官職の総称であるが,中宗時代(16世紀前半)に暗行御史が初めて記録に現れ,盛んに派遣されるのは李朝後期に入ってからであり,1892年まで続いた。その身分国王直属であり,国王から暗行御史としての命を受けた者は,帰宅することも許されずに直ちに出発し,ソウル門外に至って命令書を開封して初めてその任務地等を知った。任務を終えると王に復命書たる繡啓と別単を提出するが,それは国王以外の何人も閲覧することができなかった。本来の目的は国王権力の強化にあったが,しだいに政争の具としても用いられるようになった。暗行御史の活躍ぶりは《春香伝》からもうかがえる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「暗行御史」の意味・わかりやすい解説

暗行御史
あんこうぎょし
amhaeng-ǒsa

朝鮮,朝鮮王朝 (李朝) 時代に設けられた特命監察官の呼称。別称一別繍衣,直指。その身分は若い堂下官で必ずしも高官ではないが,国王から直接に視察内容を記した命令書を手交され,事目,馬牌 (ばはい) ,鍮尺をもって各地を探察し,郡県の守令などの非違を調べ,国王に直接復命するほか,場合によっては地方官に代って裁判もするなど強力な権限をもっていた。御史の起源はすでに高麗朝時代から存在するが,朝鮮王朝になって暗行御史の名称が生じた。暗行御史はその任務内容の性格から後期には党派争いの渦中に巻込まれることもあったが,制度としては朝鮮王朝末,高宗 (→李太王 ) 時代まで存続した。有名な『春香伝』にも暗行御史の活動が記されている。

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