春香伝(読み)シュンコウデン

デジタル大辞泉 「春香伝」の意味・読み・例文・類語

しゅんこうでん〔シユンカウデン〕【春香伝】

朝鮮唱劇歌劇)。18世紀末の成立という。知事の息子李夢竜りぼうりょう妓生の娘春香とが苦難を乗り越えて結ばれる恋愛物語。俗謡もとにした小説を脚色したもの。

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精選版 日本国語大辞典 「春香伝」の意味・読み・例文・類語

しゅんこうでんシュンカウデン【春香伝】

  1. 朝鮮の唱劇(歌劇)の代表作。作者不詳。粛宗(在位一六七五‐一七二〇)の末以降、一八世紀末の成立という。知事のむすこ夢龍は妓生の娘春香を愛して将来を誓うが、父の転勤で彼女と別れ、のち投獄されている春香を救い出し、結ばれるという筋。小説を歌劇にしたものといわれ、朝鮮で広く愛唱された。日本では、昭和一三年(一九三八築地小劇場で初演。各部分の歌を独立させて歌うことも多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「春香伝」の意味・わかりやすい解説

春香伝 (しゅんこうでん)

朝鮮,李朝のハングル小説。作者未詳。18世紀初めにパンソリ演唱者により唱物語として創作され,公演される間に小説化された。全羅道南原に住む妓生(キーセン)の娘春香と府使の子李夢竜はふとした出会いから熱烈な愛のとりこになる。しかし歓喜の逢瀬もつかのま,夢竜は父の栄転で都に去り,残された春香は新任の好色な卞(べん)学道の添寝の命を拒んで笞打たれ牢に入れられる。科挙に及第し暗行御史(王の隠密派遣使)に任命された夢竜は乞食に扮して南原に下り,卞府使の誕生の酒宴が開かれ,春香が処刑される当日に現れて,悪政をさばき春香を助け出す。二人は上京し王の特旨でめでたく結ばれる。物語の劇的展開に加えて,庶民の反抗精神を代弁した風刺俗語の使用による親近感,さらに登場人物の造型にもみごとに成功し,今日でも小説,パンソリ,映画を通じて広く愛好される。李朝小説の最高傑作。完版(全州),京版(ソウル)の板本のほかに写本も数十種ある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「春香伝」の意味・わかりやすい解説

春香伝
しゅんこうでん / チュニャンジョン

朝鮮の古典小説。パンソリとして愛唱されていた説話を18世紀初め小説化したもの。全羅道南原府使の息子李夢竜(りぼうりょう)は、退妓の娘春香と二世を契る仲となるが、父の転任で仲を裂かれる。後任の府使卞(べん)学道は春香をわがものにしようと迫るが、春香は操を守って拒み続けたため、拷問を受け命も危うい。一方、夢竜は都で科挙に及第、暗行御史(王の特命を受けた隠密検察官)となって南原に赴き、府使を懲らしめて春香を牢から救い出す。2人は幸せな夫婦となる。権力に屈せぬ貞女というこの春香像は、儒教倫理の固守者である支配層からも、官の横暴を嘆く庶民からも喝采(かっさい)を博し、朝鮮の代表的古典となった。この物語の原型としてはさまざまな説話がたどられ、『春香伝』はそれらを総合したものといえる。人気の秘密はここにもあるが、このことは数多くの異本を生み(『烈女春香守節歌』『広寒楼記』など)、漢文体も含めて約90種に上るという。

[田中 明]

『許南麒訳『春香伝』(岩波文庫)』

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百科事典マイペディア 「春香伝」の意味・わかりやすい解説

春香伝【しゅんこうでん】

朝鮮のパンソリの物語を元にした古典小説。作者不詳。18世紀ころ成立。物語は全羅道南原の郡守の息子李夢竜と妓生(キーセン)春香の恋愛で,夢竜が郡守と共にソウルに戻った後,残された春香が新任の郡守に迫害されるのを,科挙に合格し暗行御史(王の隠密派遣使)となって地方視察に下ってきた夢竜に助けられ,二人はめでたくむすばれる。種々の版本・写本があり,いずれも真面目な文と冗談が混在している。→沈清伝
→関連項目南原

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「春香伝」の意味・わかりやすい解説

春香伝
しゅんこうでん
Ch'unhyang-jǒn

朝鮮,李朝後期のハングル小説。説話からパンソリを経て小説化された。全羅北道南原府の府使 (代官) の息子の李夢竜と妓生の娘で美人の春香との恋物語。夢竜が父の栄転で上京したのちも,春香は恋人の出世を待って貞節を守り,そのため好色な後任の府使卞学道によって投獄され,死刑を宣告される。乞食に変装して地方の悪政を探りに来た暗行御史 (隠密検察官) 夢竜が彼女を救出し,2人はめでたく夫婦になる。庶民の側からの痛烈な風刺や諧謔,俗語の効果的な使用,劇的内容のために,いまも小説,パンソリ,映画などで広く愛好されている。

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