日本大百科全書(ニッポニカ) 「有明のわかれ」の意味・わかりやすい解説
有明のわかれ
ありあけのわかれ
鎌倉時代ごく初期の物語。3巻。散佚(さんいつ)物語と思われていたが、1952年(昭和27)に発見され、天理図書館に蔵せられる。作者未詳。左大臣が神に祈って得た男装の麗人で、前生は天女の右大将が主人公である。継父左大将の子を宿して苦悩する対(たい)の上(うえ)に同情して、自邸に連れ帰り、妻として男子(後の左大臣)を生ませなどするが、帝(みかど)に女であることを知られ、右大将は急死したことにして女性に戻る。その後、入内し、中宮、女院(にょういん)に至る。隠身の術、性の転換、音楽の奇瑞(きずい)など、前代の諸物語の影響が看取されるが、退廃性の少ない佳品である。
[樋口芳麻呂]
『大槻修訳・注『有明けの別れ――ある男装の姫君の物語』(1979・創英社・全対訳日本古典新書)』